「ロックは死なない」と叫んだ2021年の最重要バンド、マネスキンを徹底解剖

「折衷」と「洗練」を経た新感覚のロック

多くのロックバンドを差し置いて、マネスキンが近年稀に見るサクセスを収めたのはなぜか。その理由はもちろん、音楽的な魅力に尽きる。彼らの音楽は国境やジャンルを超えて、あらゆるリスナーに開かれたものだ。

まずはルーツを掘り下げてみよう。ローリングストーン誌のインタビューで、ダミアーノはエアロスミス、R.E.M.、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、トーマスはレッド・ツェッペリン、ヴィクトリアはデヴィッド・ボウイとデペッシュ・モードと、わかりやすいロックレジェンドを挙げていた。

「Xファクター」でカバーした曲には、彼らの志向性がよりはっきりと表れている。フランツ・フェルディナンドの「Take Me Out」、ザ・キラーズの「Somebody Told Me」、ザ・ストラッツの「Kiss This」、ブラック・アイド・ピーズの「Let’s Get Started」、イタリアのラッパー/シンガーソングライターであるゲモン(Ghemon)の「Un Temporale」、シカゴ出身のブルース/フォーク系のシンガーソングライターであるショーン・ジェイムズの「Flow」など、かなり幅広い。

Setlist.fmを調べてみると、他にも色々なアーティストの曲をカバーしてきたことがわかる。アルト・J、キングズ・オブ・レオン、ストロマエ、マイケル・ジャクソン、ローリング・ストーンズ、デイヴィッド・ゲッタ、ハリー・スタイルズ、スティーヴィー・ワンダー、ザ・ナック、カニエ・ウェスト、ザ・ホワイト・ストライプス(もちろん「Seven Nation Army」)など。EP『Chosen』のラストではエド・シーランの「You Need Me, I Don’t Need You」を取り上げているし、YouTubeではエイミー・ワインハウスの「Back To Black」の見事なカバーを聴くことができる。なんでもありのようだけれど、バンドの正直な好みが選曲に表れているようにも映る。



何が言いたいかというと、マネスキンは、70年代のロックをひたすらシミュレーションしているグレタ・ヴァン・フリートのようなバンドとは決定的に異なる存在であるということ。さらに、グラムロックやハードロックのパロディを演じていた節があるザ・ダークネスやシザー・シスターズとも、ルーツ志向のブラック・キーズみたいなバンドともちがう。一聴してシンプルでオーセンティックなそのスタイルは、実はこれほどまでに折衷的で、その背景には70年代のロックの様式美も、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのグルーヴも、ポストパンクリバイバルの鋭利さもあるし、R&Bやヒップホップやダンスミュージックからの影響も滲んでいる(さらに当然、イタリアの音楽の要素だってある)。

けれども、一方で、マネスキンはどこまでいっても、清々しいくらいにロックバンドだ。コールドプレイやThe 1975やブリング・ミー・ザ・ホライズンのように、折衷主義化やポップ化、エレクトロニック化をとことん推し進めているわけではない。特に『Teatro D’Ira Vol. I』では、あくまでも4人のメンバーからなるバンドがロックを演奏することを突き詰めている(そういった姿勢は、ザ・キラーズやキングズ・オブ・レオンのような、アリーナロック的な美学にも近いと思う)。

思えば、彼らが思春期を過ごした2010年代には、あらゆる過去のスタイルがリバイバルした末に、消費しつくされていた。古びた未来派志向にも過去への素直な従順さにも違和感を感じるからこそ、折衷主義と洗練を経た、絶妙なバランス感覚のソリッドなロックを彼らは生み出せたのかもしれない。

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