「ロックは死なない」と叫んだ2021年の最重要バンド、マネスキンを徹底解剖

マネスキン(Courtesy of ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル )

マネスキンの勢いが止まらない。「2021年の最重要ロックバンド」を掘り下げるために、米ローリングストーン誌のインタビューに続いて、彼らに入れ込む音楽ライター・天野龍太郎のコラムをお届けする。

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2021年5月23日、Twitterのタイムラインを見ていたら、ユーロビジョン・ソング・コンテストの話題をちらほらと見かけた。ユーロビジョン――古くはフランス・ギャルやアバ、セリーヌ・ディオンなど、のちの国際的なスターが優勝してきた、歴史あるコンテストではある。けれども、正直に言って、最近の音楽ジャーナリズムの世界では、そこまで大きく取り上げられることがない催しでもあったはずだ。だから、「ユーロビジョン? なんで?」というのが最初の感想だった。

どうやら、グランドファイナルでのパフォーマンスが話題になっているようだった。ロックバンドが優勝した、というのも理由らしい。これだけ話題になっているのだから、きっと何かしらの理由があるのだろう。とりあえずそのパフォーマンス動画を見てみることにした。



暗闇の中をずいずいと前に進むカメラが扉をくぐり抜けた先で捉えたのは、一人の男。上半身裸で、身に着けているのは、赤くて光沢のある、タイツのようにタイトなレザースーツ。足元はブーツ(エトロの特製スーツとクリスチャン・ルブタンのブーツだったということは、あとで知った)。後ろに撫でつけた髪と、アイラインを黒く縁取った化粧が目を引く。クイーンのフレディ・マーキュリーか、ザ・ダークネスのジャスティン・ホーキンズか、あるいはシザー・シスターズのジェイク・シアーズか……。

男は歌いながらステージの裏手から前方に歩いていき、バンドの前に立ち、粘っこい声で“Buonasera, signore e signori(こんばんは、紳士淑女の皆さん)”と歌いながらお辞儀をした。デザインの異なるレザースーツを着たベーシストとギタリストが前に出て男と並び、足を蹴り上げたり踏み鳴らしたりしながら、ヘヴィなリフをユニゾンで奏でる。

その時が訪れたのは、曲が唐突にコーラス(サビ)に入った瞬間だった。男は両足を広げて腰を低く落として艶めかしく揺れながら、上手側を向き、重いリフを弾くギタリストの間近に立って、彼と向き合いながら激しく歌い上げた。“Sono fuori di testa, ma diverso da loro(俺もイカれちゃいるが、あいつらとは違う)”。……たしかにイカれている。それに加えて、その様は、なんともセクシーで、グラマラスで、エレガントで、美しかった。

その瞬間から、私は彼らのファンになった。ああ、なんてかっこいいんだろう。一目惚れだった。そして私だけでなく、その演奏を見た世界中の人々が彼らに一目惚れしていた。



ユーロビジョンにおいて「Zitti E Buoni」で優勝したマネスキンは、そこから瞬く間に現象化した。コンテストの翌日までに、「Zitti E Buoni」はSpotifyで約400万回ストリーミングされ、イタリアの曲として史上最多の再生回数を記録した。「Zitti E Buoni」は、そのすぐあとの5月28日~6月3日のUKシングルチャートで17位になり、その後は米ビルボードチャートの複数のランキングに食い込んだ。さらにフィンランド、ギリシャ、リトアニア、オランダ、スウェーデンの5カ国で1位になった。

マネスキン現象が本当にすごいのは、ユーロビジョンでのパフォーマンスのバズと、「Zitti E Buoni」のヒットのみに留まらなかったことだ(それこそが、未だに現象が沈静化しない理由になっている)。すぐに英語詞の「I Wanna Be Your Slave」が注目を集めて、「Zitti E Buoni」に勝るとも劣らないヒットになった。同曲はUKで7月2~8日の週に最高位の5位へ駆け上がった。




それだけじゃない。現在ヒットしているのは、2017年にリリースされた「Beggin’」だ。このフォー・シーズンズのカバーは、TikTokでのバイラルヒットもあいまって、オーストリア、チェコ、ドイツ、ギリシャ、リトアニア、オランダ、スロバキア、スウェーデンと、なんと8カ国で1位になっている。ビルボードホット100に初めてチャートインしたのもこの曲で、つい先日、7月25~31日の週に35位へ上昇した。また、UKでは、トップ10に「Beggin’」と「I Wanna Be Your Slave」の2曲が入ったことで、イタリアのアーティストとして史上初の快挙を達成した。記録づくめだ。

複数の独自チャートを持つSpotifyでは、マネスキン旋風が可視化されている。6月には欧米各国やグローバルチャートで複数の曲が上位を占め、マネスキンの独壇場になった。その波は当然ここ日本にも届き、一時はバイラルトップ50のトップ3を独占するなど、彼らの勢いは止むことがない。

けれども、数字のことなんて、本当はどうでもいいのかもしれない。もっと重要なのは、その背景にある何かだ。つまり、ローマから現れたロックバンドが今、多くの人々の心をぎゅっと掴んでいるということ。では、なぜ世界の人々はマネスキンの虜になっているのだろうか。ようやく、ではあるけれど、ここからが本題だ。

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