ジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』50周年を迎えた名盤の革新性

『オール・シングス・マスト・パス』ジャケット写真

先ごろ発売されたジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』50周年記念エディションが、オリコンデイリーランキング(8/6付)で総合1位を獲得するなど日本でも話題を集めている。1970年に発表された本作の革新性、今回のリイシューにおける聞きどころを掘り下げた、米ローリングストーン誌のレビューをお届けする。

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ジョージ・ハリスンが『オール・シングス・マスト・パス』の制作を始めたのは1970年5月、彼が27歳のときだった。15歳のときから音楽人生を捧げてきたビートルズが(同年4月に)解散したあと、ジョージは夏から秋にかけてスタジオにこもり、それまで温めていた曲に打ち込みつつ、新曲も作り上げていった。彼はここでオールスターキャストというべき面々、盟友エリック・クラプトンやボビー・ウィットロック(共に後年デレク・アンド・ザ・ドミノスを結成)、クラウス・フォアマンにビリー・プレストン、リンゴ・スターやジョン・レノンまで十数人の仲間を集めた。

共同プロデューサーのフィル・スペクターが例によって過剰に音を重ねた本作は、同年11月にLP3枚組でリリース。然るべき時間と発言の場さえ与えられたら、元ビートルズの「Quiet One」にいくらでも語ることがあることを証明してみせた。自分の弟に口出しさせない従兄たちが家を出たあと、残された従弟が賢くておもしろい人物であることに気づく。『オール・シングス〜』はそんなアルバムである。




ジョージ・ハリスン(Photo by Barry Feinstein)

今回の50周年記念リイシューは、目からウロコの落ちそうなリミックスに加えて、47曲もの(!)デモ音源/アウトテイクを収録。デジタル音源、LP8枚組、CD5枚組のほか、重さ50ポンド(約22kg)の木製ボックスに2冊の豪華ブックレット、ジャケットに登場する妖精の模型などのグッズを封入した「Uber Deluxe Edition」も用意されている。これぞまさしく“リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド”といったところか。

オリジナルの『オール・シングス〜』は、ここで見事に熟成されている(新鮮なリミックスも悪くない)。親しみやすいフォーキーな楽曲(「ビハインド・ザット・ロックト・ドア」「美しき人生」)、スピリチュアルな探求(サプライズヒットとなった「マイ・スウィート・ロード 」)、爆発的なジャム・セッション(「アウト・オブ・ザ・ブルー」)まで。80年代から90年代にかけてカレッジ・ラジオを占拠したインディーロックを、ここでジョージが発明していたのがよくわかる。

このアルバムは1987年、1995年、もしくは来週の金曜日に、MergeやSecretly Canadianといったレーベルからリリースされたとしてもおかしくない。ジャムについて付け加えると、同じく1970年にリリースされた『ジョンの魂』のミニマムな心理劇や、『マッカートニー』のベースメント・ポップを上回る形で、本作は次の10年がヘヴィなサイケ・ロックの時代になることを完璧に予見していた(ジョージは過小評価されているビートルズのサイケな楽曲「It’s All Too Much」の作者でもある)。

Translated by Rolling Stone Japan

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