松本隆の作品に通底しているもの、トリビュートアルバムを本人と振り返る



田家:先週はこのアルバムの一曲目に「夏色のおもいで」の話の時に、作詞家になるからどうか悩んだ時期があったという話がありました。はっぴいえんどが解散した時は、松本さんはプロデューサーという方向もあるんだと考えた、と。

松本:1年間に4枚のアルバムをプロデュースして、それも歴史的な名盤だったけれどね。

田家:それで生活できないから作詞家になったという。

松本:はっきり言えば、作詞家になって成功すれば生活できるから。そっちの方が手っ取り早いと思ったかな。あとは自分なら、うまくいったら体制内改革みたいに全部ひっくり返せるんじゃないかと思ってたね、実際はそんなに甘くなかったけど(笑)。ある部分はひっくり返せたけど、すぐに塗り込められたというか。

田家:南佳孝さんは、松本さんがプロデュース・作詞のアルバム「摩天楼のヒロイン」を歌われて、はっぴいえんどの解散コンサートの時にデビューしました。でも、結果はあまり芳しくなく、1978年に再会して1981年の「スローなブギにしてくれ (I want you) 」に至った。角川映画の主題歌でした。

松本:これは伝聞なんだけど、僕のマネージャーが僕のところを辞めた後、春樹さんの映画の音楽部門のチーフになって。それで彼が映画を仕込む立場になって、僕に詞を書いてって頼まれたのがこの仕事で。原作も好きだったし、第三京浜をバイクで飛ばすっていうのは自分もやってたしさ。なんか親近感があってね。あの時、佳孝は「モンローウォーク」でスポットライトを浴びてたんだけど、その次の勝負曲がこれだった。だから、これはもういけるなと思ってさ。できるだけシンプルでアツい歌作りたいなって思った。大人の感じでハードボイルドにしてという。今思うと、完璧にやりたいことができたような気がするの。そういうのを歌えそうな人って佳孝しかいないんだよね。大滝さんも細野さんも茂もハードボイルドじゃないし。そういう意味で、佳孝にしかできないことって僕の中であってね。都会的でシティポップの元祖でもあるというのと、もう一つはハードボイルドで男の生き様を具現化してくれる。それが南佳孝。

田家:『摩天楼のヒロイン』はそういうアルバムでした。

Rolling Stone Japan 編集部

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