―ちなみに、ヒロトさんが音楽ファンとして今回のプロジェクトのようにワクワクしたアーティストの企画ってどんなものがありましたか?
これは、わざと似せようと思ってたわけじゃないけど、クラッシュが8枚組のシングルBOX(1980年に発売された日本独自企画の『the Clash SINGLES’77-’79』)を出したとき、ものすごくワクワクした。それはどうしてそうなったかというと、日本でのクラッシュの紹介が完璧ではなくて、シングル盤が出てなかったんですよね。本国イギリスでは出ていたシングル盤が日本では出ていないということに気付いたクラッシュのメンバーが、「日本にもファンがいっぱいいる。彼らも聴きたいかもしれないから、今まで出したシングルを全種類出そう」って、どうせ出すなら特別なことがしたいって言って、ポール・シムノンがデザインした特製BOXに8枚のシングルが入ったものを発売したんです。あれはワクワクした。価格が4,400円だったと思う。まったく同時期にポリスが6枚組を出したんだけど、これが6枚で6,000円くらいだったんですよ。「クラッシュ、やってくれたぜ!」って思った(笑)。
―(笑)。ポリスの方も買いました?
そのときは買わなかったけど、随分経ってから中古盤屋さんで買いました。
―じゃあ、今回の企画は無意識にそういうBOXセットの影響も受けていたかもしれないですか。
シングルズBOXを手にしたときの喜びを実感してますから。それは今でも僕は覚えていて、今回の僕らのBOXも、欲しい(笑)。
―ご自分が一番欲しいものを作ったわけですね。
そうそう。僕はいつもそうです。自分たちが欲しいものを作ってる。
―ジャケット、BOXのデザインはこれまでもザ・クロマニヨンズの作品のデザインを手掛けてきたデザイナーの菅谷晋一さんによるものですね。ヒロトさんは映画「エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット」の中でもコメントしていますが、今回のデザインも完全に菅谷さんにお任せしたんですか。
そうです、彼の作品です。そこで初めて面白いことが起きるんです。僕らが何か介在すると、もうそこには化学反応が起きないんですよ。まったく違うところからボンっとぶつかるから面白いのであって、あちらから向かってくるものをコントロールしたらつまらないじゃないですか?どんなぶつかり方をするのか最初からわかってるんだから。そんなのつまらない。
―その分、毎回出来上がってきたものは新鮮な驚きがあるんですね。「SIX KICKS ROCK&ROLL」のメインビジュアルが出来上がってきたときはどう思われました?
いやもう、何の意味も感じずにただ「カッコイイ」と思った。これね、BOXの質感と発色がいいんですよ。なんか欲しくなるんだよなあ、これ。モノとして(笑)。
―確かに、これは欲しくなりますね。
豪華でしょ?そしてここ(メインビジュアルの星の部分)が刺繍なんですよね。それが良くわかる。
―ジャケット制作現場に密着した映像が6カ月連続で公開されますが、事前に公開された映像でこの刺繡を縫っている様子を見ることができました。
最終的にはコンピューター上での作業に落とし込んでいくんだけど、彼は必ず手作業なんですよね。そしてクリエーターでもありながらレコードコレクターで、アナログ盤が大好きな人だから、この作品にはもってこいですよ。僕らは僕らの欲しいものを作ろうとするし、彼は彼の欲しいジャケットを作るんだよ、きっと。「俺ならこれ買いたい!」っていうものを。たぶんね。そんな感じがする。