ジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』関係者が語るリイシューの意義、フィル・スペクターの功罪

ジョージ・ハリスン(Photo by Barry Feinstein)

息子のダニー・ハリスン、クラウス・フォアマンなど多くの関係者たちが、50周年記念エディションとしてリイシューされたジョージ・ハリスンによる1970年の傑作『オール・シングス・マスト・パス』の制作背景を振り返る。

ビートルズと親しかったベース奏者/芸術家のクラウス・フォアマンの記憶によれば、1970年の5月末のある日、EMIスタジオ(のちのアビーロード・スタジオ)に到着した時、彼はこのあと何が待ち受けているかまったく見当もつかなかった。事前にわかっていたのは、ジョージ・ハリスンが新しいプロジェクトを始めるということ、そしてリンゴ・スターがドラムで参加するということだけ。だが気づくと、フォアマンはジョージの未発表曲を山ほどリハーサルしていた。「美しき人生」「アウェイティング・オン・ユー・オール」「マイ・スウィート・ロード」と、次から次へ合計15曲。「何曲あるのか想像もつかなった」とフォアマンは今なお驚いた様子でこう言った。「すごかった。俺たちはとにかく、ジョージの演奏になんとか合わせていたよ」

その時のセッションが、のちに『オール・シングス・マスト・パス』となるアルバムの発端だった。ビートルズが消滅して数カ月後、ジョージのアーティストとしての独り立ちを確立させた記念すべき3枚組LPだ。ジョージが作曲した楽曲に、リバーブとミュージシャン軍団を多用したプロデューサーのフィル・スペクターの録音手法が合わさって、厳粛かつ壮大ながらも、軽快でメロディアスなアルバムが生まれた(タイトルもそうだし、ジョージがフライアーパークの自宅の庭で、4つの妖精の置物に囲まれているジャケットも、ビートルズの終焉に対する彼なりの物言いと解釈できよう)。CD時代に突入すると、このアルバムは何度かリマスターやリイシューが施された。2000年にリリースされた30周年記念盤では、ジョージ最大のヒット作となった敬虔な「マイ・スウィート・ロード」を本人自らリメイクしている。



昨年11年から始まった50周年記念イヤーにあわせ、『オール・シングス・マスト・パス』はこれまでで一番ゴージャスな扱いを受けることになる。50周年記念スーパー・デラックス・エディションはオリジナル・アルバムのリミックスに加え、未公開音源を収めた3枚のCDがセットになっている。1枚目には制作初期にリンゴとフォアマンと3人で演奏した全15曲、2枚目にはアンプラグド・バージョンの「ワー・ワー」(ビートルズの打ち合わせに関するジョージの意地悪な解説入り)を含む別の15曲の単独デモ音源が収録されている。3枚目は、息子でありリイシュー版のエグゼクティブ・プロデューサーをつとめたダニー・ハリスンが呼ぶところの「パーティ・ディスク」。別バージョンのテイクや未発表ジャムセッション、ジョージとアルバムに参加したミュージシャン――ピーター・フランプトン、ビリー・プレストン、デイヴ・メイソン、エリック・クラプトンとドミノスの面々――のスタジオでの会話が収められている。

それらと同じくらい魅力的なのが、『オール・シングス・マスト・パス』のオリジナルサウンドが緻密にリミックスされている点だ。スペクターの魅惑的な重厚かつエコー満載のアレンジを明瞭にしつつ、2001年に死去したジョージの生前の意向を忠実に再現した。「父はリバーブが大嫌いでした」とダニーは言う。「『ああ、またリバーブか!』と言っているのを何百回も聞きました」。フォアマンも、のちにジョージが多重録音について同じようなコメントを言っていたのを覚えている。「彼はよく『やりすぎだ』と言っていたよ」

Translated by Akiko Kato

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