ジョージ・ハリスン『オール・シングス・マスト・パス』関係者が語るリイシューの意義、フィル・スペクターの功罪

ジョージ・ハリスン(Photo by Barry Feinstein)


次世代の耳にフレンドリーな音

最近ではジョン・レノンのボックスセットや、ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』デラックス・エディションを手掛けたエンジニア、ポール・ヒックスが陣頭指揮を執った『オール・シングス・マスト・パス』は、これまでのリイシューでは技術的に不可能だった高音質変換を用いて生まれ変わった。「ウルトラ・リマスタリングという技法で、音を最大限に細かく分離できるんです」とダニー。「より低音まではっきり聴こえるんですよ」

リイシューの行程は非常に手間のかかるもので、試行錯誤が繰り返された。ヒックスの話では、最初のうちは「低音が効きすぎた」そうだ。もうひとつ、ダニーとヒックスが学んだのは、リバーブなしというジョージの意向は時に口で言うよりも実現するのが難しい、ということだった。「『ワー・ワー』のように、ボーカルがリバーブに焼き付いている曲があるんです」とダニー。「全ての曲からリバーブを取り除くと、アルバムとして成立しない。テイストの範囲内で、ある一定の匙加減をしないといけないんです」 ビートルズ・ファンへ贈るディラン風のアコースティック曲「アップル・スクラッフス」に関していえば、「ディレイを取り除くと、デモ音源のようになってしまうんです」とヒックス。「ヒア・ミー・ロード」のスラップエコー同様、この曲でもオリジナルのミックスがそのまま残された。

だが何度か右往左往した末、ダニーのチームは正しいバランスを見つけ出した。新たに手を施されたアルバムではジョージの声がより前面に押し出され、音が積み重った中にも個々の楽器の音がはっきり聞き取れるようになった。「オリジナルは尊重したいじゃないですか」とヒックス。「ダニーと僕は“脱スペクター”という表現が嫌なんです。今回のプロジェクトの目的はそこじゃありませんからね」


「胸に迫るものがありました」父親の名作リイシューに携わったダニー・ハリスン(Photo by Josh Giroux)

ダニーいわく、今回のリミックスにはアルバム50周年を記念する以外に、次世代の耳にもフレンドリーなアルバムにする、という目的があった。「余計な手間をかけるつもりはありません」と彼は言う。「でも、現代の音楽と並べたとき、ヘッドフォンで聞いても際立つものにしなくちゃいけません。オリジナルのミックスは、プレイリストに並べると弱いんです。今回のミックスで、このアルバムは若い世代に長く聴き継がれていくことでしょう。前よりも腰を据えて聴きやすくなりますよ。まるでつい昨日収録したかのようなサウンドです」

もちろんこの場合、収録されたのは51年前だ。周知のとおり、ジョージは(インスト・サウンドトラック『不思議の壁』と、実験的なシンセサイザー作品『電子音楽の世界』を経て)正式なソロデビューを迎える準備を重ねていた。「スタジオに入ってフィル・スペクターと作業をする前から、父の頭の中では出来上がっていました」。アルバムの完成から8年後に生まれたダニーはこう語る。「父は長いことアイデアを温めていたんです。ビートルズ時代もじっと耐えて、行動に移すべき時が来たときには方向性がはっきりわかっていた。ふらっとスタジオに入って、プロデューサーにやることを指示したわけじゃない。ちゃんと準備ができていたんです」

Translated by Akiko Kato

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