「Reborn-Art Festival」が伝える、今の世の中に必要な「利他と流動性」

オノ・ヨーコ「Wish Tree」1996年/2021年(Photo by Taichi Saito ©︎Reborn-Art Festival)

アート・音楽・食の芸術総合祭「Reborn-Art Festival 2021-22」が今年も宮城県石巻にて開催されている。東日本大震災から10年の節目であり、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の徹底が必要でもある今回は、2021年8月11日〜9月26日、2022年4月23日〜6月5日の2期に分けて開催。実行委員長を務めるのは、小林武史。

「今のこの地球上には、絶滅危惧種といわれる生き物がたくさんいて。1日100種くらいのすごいスピードで生物が滅びているんです。でも、それに匹敵するだけの新しい生物が生まれている。何が生まれているかというと、ウィルスや細菌らしいんです。つまり食物連鎖の生態系の中で君臨している人間に立ち向かってくる生き物が生まれている。だから、とても大変なことだと思うんですよ」――これは、筆者が以前担当したインタビュー取材にて小林武史が語っていたことだ。驚くべきは、これが最近の発言ではないということ。5年も前に語った言葉である。

「優れた表現には予言が宿る」とよくいうが、それは決して表現者に予知能力があったり占術に長けていたりするからではない。世の中で起きていることから目を背けずに事実や知識を吸収し続けた上で、人間の行動や心理を深く鋭く観察する力を持っているからこそ、クリエイトした作品に人間に対する警告や未来に起こる事態の欠片が宿ってくる。小林がそういった類の優れた表現者であることは言うまでもない。


小林武史

小林は、2003年に坂本龍一、櫻井和寿らと環境プロジェクトへの非営利融資機関「ap bank」を設立し2005年に「ap bank fes」をスタートさせた頃から、人間と自然の共生に対して発信と行動を起こし、災害時には支援を続けてきた。そんな小林が、新型コロナウイルスの猛威によって人と人が触れ合うことに制限がかかり、経済活動も今まで通りにいかなかくなった、人々が困惑している世の中へ、自身が主宰する総合祭「Reborn-Art Festival 2021-22」のテーマとして掲げて訴えるのは「利他と流動性」についてだ。

小林は「(人間の)進化の段階としてなのか、資本主義の限界としてなのか、個の自由がひいては「利己」を増幅するという結果を招いている」と指摘した上で、「利他」の精神を改めて広めていく重要性に目をつけた。また「利他」の「他」とは他者=人間だけでなく人間以外の生き物や環境をも指して、人間も自然の一部であることを強調し「全体とのつながり」の中で利他的に生きるセンスを磨いていくことを提案する。そして「流動性」とは、人間・物事・環境などあらゆることが変化をしていく中で、残り続けるものや感触とは何か、何を新たに手にして、何を取り戻すべきなのか、そんなことを問いかけていく。

今回アートのキュレーターとして小林が声をかけたのは、窪田研二。「六本木クロッシング2010―芸術は可能か?」(森美術館、2010年)、「Don’t Follow the Wind」(福島の期間近内区域内某所、2015年〜)の他、シンガポールや台湾など海外でもアートフェスティバルに関わってきた人物だ。前回と同様、エリアごとにキュレーターを替える「マルチキュレーター制」を取ることを当初は検討していたようだが、小林が発案し窪田が共鳴した「利他と流動性」というテーマをより濃く各アーティストとも共有し作品で表現していくために、夏は窪田が一人でキュレーターを担うことが決まったという。夏は全23組(常設作品を除く)のアーティストが参加する。


窪田研二

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