マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ケヴィン・シールズが語る過去・現在・未来

ケヴィン・シールズ(Photo by Takanori Kuroda)

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとシューゲイザーが再び盛り上がりを見せる2021年。同ジャンルを総括した名著の増補改訂版『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』の監修・黒田隆憲によるケヴィン・シールズ最新インタビュー、バンドと日本のファンとの相思相愛ぶりを考察したコラムをお届けする。

※この記事は2021年6月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.15』に掲載されたもの、インタビューは2月下旬に実施。

たった1枚のアルバムで、その後のギターバンドのあり方を根本から変えてしまったマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。幾重にもレイヤーされたフィードバック・ノイズや儚げで美しいメロディを、それまでの常識を覆すようなミックス・バランスによってまとめ上げた1991年の2ndアルバム『loveless』は、リリースから30年経った今も愛され続け、その謎めいたサウンドスケープを解明しようとする人々は後を絶たない。

彼らの旧作のストリーミング配信が解禁され、新装盤CD/LPもリイシューされた2021年はしかし、過去に何度か訪れた「マイブラ祭り」とは様子が違う。というのも、これまでメディアにはほとんど姿を現さなかったバンドの司令塔ケヴィン・シールズが、今回はいつになく積極的に取材やメディア出演に応じているのだ。バンドやその作品たちが「神格化」されることを避けようとしているのか、それとも単なる気まぐれか……? いずれにせよ、本誌も1時間半に及ぶインタビューを行うことに成功。アイルランド郊外にパートナーと2匹の愛犬と共に移住したケヴィンに、コロナ禍で考えていたこと、ソングライティングの具体的なプロセス、メンバーへの想いなどを尋ねた。


コロナ禍に考えていたこと

―ケヴィン、まずはご結婚おめでとうございます。

ケヴィン:どうもありがとう(笑)。

―アイルランドに移住してからもうだいぶ経ちますよね。そちらでの生活はどうですか?

ケヴィン:とても快適だよ。音楽に集中するにはもってこいの場所だ。ロンドンに暮らしていた頃、僕らの作業時間は決まって夜だったのだけど、それは周囲に誰もいなくなった頃合いを見計らっていたからだったんだ。もちろん、そもそも夜型人間だから夜の方が生き生きとしていられたのもあるけど(笑)、今のように昼間でさえ誰にも邪魔されずに音楽が作れるのはありがたいよ。

―それは何よりです。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な大流行になりましたが、どんな日々を過ごしていましたか?

ケヴィン:こんな田舎に住んでいても、その影響からは免れられなかった。都心から離れているからこそ飛行機での移動が多いのにも関わらず、それが出来なくなってしまったからね。去年の春くらいはまだ、往来が全くなくなったことをちょっとしたマジックのように感じていたんだけど、それによって病気になる人や、病床数が逼迫して大変な思いをしている人がたくさんいるわけだから、そんな悠長なことも言ってられないよね。

―日本では音楽関係者に支援が行き渡らずに社会問題になっています。イギリスはどうですか?

ケヴィン:全く同じ状態だよ。音楽関係者の状況はひどいものだ。特にUKはブレクジットの影響もあって、ミュージシャンがEU諸国に往来することに関して全く取り決めがなされぬままコロナ禍になってしまったから。1年もの間、完全に移動が止まってしまった中で、アイルランドも含めたUK周辺の音楽コミュニティは本当に疲弊している。僕らに関してラッキーだったのは、Dominoと契約して音楽の「制作段階」だったこと。ただ、今後は移動も多くなっていくだろうから影響も出てくるだろうね。


左上から時計回りにビリンダ・ブッチャー(Vo,Gt)、ケヴィン・シールズ(Vo,Gt)、コルム・オコーサク(Dr)、デビー・グッギ(Ba)(Photo = Paul Rider)

―他のメンバーたちとも会っていますか?

ケヴィン:コルム(・オコーサク)は今アイルランドに住んでいて、ビリンダ(・ブッチャー)とデビー(・グッギ)はロンドンに住んでいるのだけど、幸いにしてイングランドとアイルランドの間は共通旅行区域(コモン・トラベル・エリア)だから、ビザなしでもお互いに行き来することが出来る。まあ、いずれにせよ今はコロナで会えないのでオンラインで近況報告はしているよ。コロナさえ落ち着いてくれれば、もっと自由に、楽に行き来しながら作業も一緒にできるのだけどね。

―昨年はコロナだけでなく大統領選挙や香港デモ、BLMなど様々なことが世界中で起きていました。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下、MBV)もSNSの公式アイコンを黒くするなど、ある種の「政治的なスタンス」を明確にしていましたよね。ここ最近の世界情勢に関してはケヴィンは今どんなふうに見ていますか?

ケヴィン:本当にこの1年、様々なことがあったよね。僕らバンドとしては、BLMについては完全に支持する立場だった。アメリカで起きたこととはいえ、世界中の人々が考えるべき問題だとも思う。法律や社会システムの中に差別が組み込まれていることは本当に酷いことだしアンフェアだ。そこに変化をもたらそうという運動であれば、それに対して何かしらのサポートをすることがとても重要だと思っている。SNSでの意思表示はその一つだね。

それから大統領選挙のこと。トランプのような人物が現れたのは、何もアメリカだけの問題ではなくて世界中で右傾化が進んでいたことの、一つの象徴だったと思う。人々の対立や分断を利用し、それを顕在化させることで両極化が進んでいたというか。そのせいで最近のアメリカは全くもってカオス状態だったけど、一つポジティブなことが言えるとすれば、「最悪の事態はもう過ぎた」ということじゃないかな。ここから先は、例えば環境問題などもっと目を向けるべき課題に取り組むことが出来ると思っているよ。

―そういえば、つい先日ダフト・パンクが解散を発表したじゃないですか。2013年にフジロックでお会いした時、あなたが「『Random Access Memories』をよく聴いている」と言っていたことを思い出したんです。 

ケヴィン:そうだったね。

―最近はどんな音楽を聴いていますか?

ケヴィン:えっと、そうだな……色々チェックはしているんだよね。1年前にようやくSpotifyを導入したので、巷で話題になっているものも聴いているんだけど……あ、アール・スウェットシャツは良かった。気になるのはやっぱりオルタナティブ・ヒップホップとかが多いのかな。そうそう、フランク・オーシャン! 彼の『Blonde』は大好きだったし、それ以降に出したシングルもすごく面白いよね。あとは、アイリッシュのちょっとヒップホップっぽいテイストのデニース・チャイラ(Denise Chaila)も気に入っているよ。

―フランク・オーシャンがお好きなのはすごく分かる気がします。

ケヴィン:今、こうやって君に尋ねられて「何が一番印象に残っているかな?」と思った時に、たまたま浮かんだのがフランク・オーシャンだっただけで、他にも色々聴いてはいるんだよ。というか「こういう話はあまりしないようにしよう」といつも思っていてさ。後で絶対に「あれも言ってなかった」「これも言い忘れた」と思って後悔するから(苦笑)。でもつい喋ってしまうね。

Translated by Kazumi Someya

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