マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ケヴィン・シールズが語る過去・現在・未来

ケヴィン・シールズ(Photo by Takanori Kuroda)


楽器の限界を超えた表現

―ところで『loveless』や『Isn’t Anything』『m b v』には、例えばビートルズの『アンソロジー』シリーズのようにアウトテイクやデモ音源、あるいは『ep’s 1988-1991 and rare tracks』に収録された曲以外の未発表曲、ボツ曲なんてものも存在するのでしょうか。

ケヴィン:『loveless』に関しては、2曲くらいドラムとギターだけレコーディングしたけどそのままお蔵入りになった曲があった気がする。『m b v』でも、数曲そういう未完成のマテリアルと、あと1曲だけ「いつか発表してもいいかな?」というものがあるけど、まだラフスケッチの段階だね。そのくらいかな。

―なるほど。じゃあ『loveless 30周年デラックス・エディション』みたいなものが、今年リリースされる予定はなさそうですね?(笑)

ケヴィン:まずないだろうね、残念ながら(笑)。

―ちなみに『ep’s』に入っている未発表曲は、どのタイミングでレコーディングしたんですか?

ケヴィン:まず「angel」と「sugar」は1989年1月で、「good for you」と「how do you do it」は『Isn’t Anything』セッション中にレコーディングした。なぜボツにしたかというと、自分のヴォーカルが気に入らなかったから。僕らの音源がボツになる大抵の理由は、自分のヴォーカルが気に入らなかったということなんだよね(苦笑)。でも、音楽的にはなかなか捨てたものじゃないし、きっと僕らのファンが喜んでくれるだろうなと思って今回入れることにした。同じような理由から、1989年1月から5月、『Isn’t Anything』の最初のセッションの中から、ひょっとしたらあと2曲くらい日の目を見るものがあるかもしれない(※)。

※『ep’s 1988-1991 and rare tracks』(2021年版のフィジカル)に収録された2曲のシークレット・トラックのうち、1曲のことを指していると思われる。

―それは楽しみです。当時、リアルタイムでMBVの作品を追いかけていて、特に驚いたのは2作のEP『glider』から『tremolo』のサウンド面における大きな変化でした。『tremolo』があそこまでアンビエントにシフトしたのはなぜだったのでしょうか。

ケヴィン:まず『glider』制作時は、僕らバンドにとってストレンジな時期だったんだ。最も実験的な時代というか。サンプリングも多用したし、音作りに何日もかけて、だけどレコーディング自体はパパッとやってしまう。そんなやり方をしていたんだよね。『tremolo』の時は、長い間『glider』のスタジオワークに時間をかけたあとだったので、ちょっとした開放感みたいなものが出ていたのかも知れない。かつての自分たちのように、パパッと作業を進めていくやり方に戻った勢いが楽曲にも表れている気がするな。『loveless』も実は、レコーディング自体は2、3週間で終わったんだ。ただ、その後のミキシングにものすごい時間をかけたんだけどね。6週間くらいだったかな。ちょっと作り方が異例だった。

―スタジオでの時間のかけ方、レコーディングとミキシングの作業の時間の割り当てにそれぞれ違いがあったわけですね。当時不思議に思ったのは、『loveless』の中で使用されているシンセ音でした。例えば「when you sleep」や「i only said」、「to here knows when」などで使用されているあの独特のサウンドはどうやって作ったのですか?

ケヴィン:実はあれはシンセではなく、ビリンダの声やギターのフィードバック、フルートなどをサンプリングして、それを鍵盤にアサインしてピッチベンドで操作しながら弾いているんだ。だから、音作りそのものは難しくないんだよね。

―それって「swallow」のエスニックなアプローチとも通じるものがあるのでしょうか。

ケヴィン:そうかも知れない。ピッチベンド奏法そのものは、僕はずっとギターでやってきたことなのだけどね。ジャズマスターやジャガーのトレモロアームを使用することで、コードを変調させるのと発想としては一緒。なので発端はギターだけど、君の言うように民族音楽にはずっと興味があった。



―西洋音楽の要である12音階から逸脱したサウンドを、通常の楽器を使ってどう奏でるか?ということを模索する中で思いついたものというか。

ケヴィン:その通り。そういえば、以前YouTubeで色々と音楽を聴いていたら、ピッチやトーンがどんどん変化していくものすごくアヴァンギャルドな音楽を発見してさ。「なんて興味深いんだろう」と思って調べたら、実は日本の伝統音楽だったんだ。いわゆる西洋の音楽、特に鍵盤に置き換える時には全てが全音半音の中にハマらなければいけないということになってしまったけど、ヨーロッパを含めたいわゆる伝統音楽というのは、そこに当てはまらない「中間の音」がたくさんあるし、チューニングのシステムも僕らの常識とは異なるものがある。ピッチもトーンもすごく自由なんだ。それを表現したいのに、楽器には限界があって出来ないことが僕にとってはとても窮屈で。なんとか打破しようとして思いついたのがトレモロアームやピッチベントだった。僕にとってそれは、とても自由な表現方法なんだよね。

Translated by Kazumi Someya

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