ニコラス・ジャーとデイヴ・ハリントンが語る、「異形のジャムバンド」ダークサイドの方法論

ダークサイド(Photo by Jed DeMoss)

革新的プロデューサーのニコラス・ジャーと、即興シーンで活躍するマルチ奏者のデイヴ・ハリントン。2人の奇才によるダークサイドが再始動し、およそ8年ぶりとなる2ndアルバム『Spiral』を発表した。他の追随を許さないバレアリックな音世界を掘り下げるべく、最新インタビューをお届けする。

ダークサイドは、2011年にロードアイランド州プロビデンスで結成されたアメリカのロックバンド。チリ人の電子音楽家兼ボーカリストのニコラス・ジャーと、アメリカ人のマルチ演奏者、デイヴ・ハリントンの2人で構成されている。ジャーとハリントンは、プロビデンスの大学に在学中に、共通の友人であるサックス奏者のウィル・エプスタインを通じて知り合った。2011年夏に2人は、ジャーの画期的なデビューアルバム『Space Is Only Noise』をサポートするためにヨーロッパとオーストラリアをツアーした。

プロビデンスに戻ってからも2人は作曲を続け、2012年にセルフタイトルのEPを、2013年10月には絶賛されたデビューアルバム『Psychic』をMatadorからリリースした。このアルバムは、Pitchforkから9.0の評価を受け、New York Timesは 「失われたデヴィッド・リンチのSF映画のサウンドトラック」と評するなど、高い評価を得た。

2014年に行われた『Psychic』ツアーの後、2人のミュージシャンたちは各自の道を歩み続け、その道は時には平行し、時には交差していった。ジャーは、自身の名前で5枚のアルバムをリリースし、アゲンスト・オール・ロジック名義で2つのクラブミュージック集を発表。ハリントンは、プロデューサーや作曲家として活動し、自身のデイブ・ハリントン・グループから2枚のアルバムをリリース。その間、彼はニューヨークとブルックリンで約300回のライブを行い、本田ゆか、ブライアン・チェイス、イルハン・エルシャヒン、ジェネシス・ブレイヤー・P-オリッジ、ジョー・ルッソ、イノフ・グナワ、エンジェル・デラドゥーリアン、ザ・マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジョウカ、ネルス・クラインなど、幅広い即興演奏家やコラボレーターのコミュニティに深く入り込んでいった。

2018年の夏、ハリントンとジャーは、現在のニュージャージー州フレミントンであるレニ・レナペ領に小さな家を借りた。彼らはそこに1週間滞在し、1日1曲のペースで制作を進めた。2ndアルバムの完成にはさらに1年半かかったが、バンドの新譜『Spiral』の6曲は、この最初のセッションで書かれ、録音されたものだ。

「ダークサイドは当初から俺たちのジャムバンドだった。それは、休みの日にやることだったんだ。俺たちが再結成したのは、また一緒にジャムをするのが待ちきれなかったからなんだよ」とジャーは話す。ハリントンもこれに同調して、「その時がまた来たんだなと感じた」と話し、「このバンドでは、自分たちだけでは絶対にやらないようなことをやっている。ダークサイドは、俺たちが2人で音楽を作るときにその場に発生する、第3の存在のようなものなんだ」と話している。



ーアルバムが完成した今の心境をお聞かせください。

デイヴ・ハリントン:この音楽をみんなとシェアできることが楽しみだよ。今回が一応「完成したアルバム」ではあるんだけど、俺はアルバムが完成するということは実質ないと思っているんだ。なぜなら、この音楽は、時間が経つに連れて形を変え、様相を変えていくし、そして何よりも重要なのは、人々がそれを聴くことで変わっていくから。聴くことは素晴らしいコラボレーションになると思うし、俺はそれを楽しみにしているんだ

ニコラス・ジャー:俺もデイヴと同感だね。アルバムは常に未完成なんだ。未完成であり、聴かれるたびに完成される。それは、宙に浮いていて、リスナーが聴くときだけ、地に足をつけるんだよ :)

ープレスリリースによれば、「2018年の夏にニュージャージー州フレミントンに小さな家を借り、1週間かけて1日1曲のペースで楽曲を作った」ことで活動再開したということですが、そこに至るまで、ふたりの間でどんなやりとりがあったんでしょう?

ハリントン:俺たちはずっと連絡を取り合っていたけど、今回は再会をしたという実感があった。 静かな時間の中で、邪魔されずに、一緒に考えたり、音楽に取り組むことができた。それは、最後にニコとコラボレーションして以来、ずっとまたやりたいと思っていたことだった。

ーダークサイドは2014年のライヴを最後に活動休止になったわけですが、それから今回の楽曲制作/レコーディングまで、活動再開の話はまったく出なかったんでしょうか?

ジャー:2人とも2018年にそろそろまた2人で何かやろうと思って、会って音楽制作をしようという計画を立てた。でも2人が会うのは、アルバム制作をするとか、ダークサイドの活動を再開するという決断をした訳じゃなかった。むしろ、4年後のダークサイドがどうなっているのかを確認するための実験だった。


2013年のライブ映像

ーお互いのダークサイド後、ダークサイド外の音楽についてどう思ってましたか?

ハリントン:ニコの音楽はいつも俺にインスピレーションを与えてくれる。俺たちは、各自の音楽においてでも、共通の関心事や追求したいことがあるけれど、それらのアイデアを探求する時、俺たちは異なるツールや戦略を使うことが多いから面白いんだ。それから、俺たちは2人とも、自分たちの音楽(共有のものと個々のもの両方で)即興を探求していることが非常に多いんだが、即興における新しい方法やアプローチを見つけるためにニコが用いる戦略は、いつも俺に大きな刺激を与えてくれるんだ。

ーフレミントンに於ける曲作りは、具体的にどんな形で、どんなプロセスでおこなわれたんでしょう。その時の様子も教えてください。

ハリントン:俺たちが一緒に音楽を作るときは、特定のやり方や1つのアプローチがあるわけではないんだ。俺たちはいつもアイデアを追求できる準備を整えているし、常に即興ができる状態になっているから、小さな火花を炎へと変えられるように、その瞬間が来るのを待っているのさ。俺にとってダークサイドの活動がすごくエキサイティングだと思う理由の1つに、何をするにしても1つの方法だけではないという事実がある。俺たちは常に新しいテクニックを試したり、実験をしたりしながら作曲をして、制作をして、即興をしているんだ。

Translated by Emi Aoki

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