シルク・ソニックはどこへ向かう? ブルーノ・マーズとA・パークのソウル革命を紐解く

最新シングルから読み解く「美学」

現時点での最新シングルは、“サマータイム・ジャム”との触れ込みで7月30日にリリースされた「Skate」。シルク・ソニックの音源としては4曲目ながら、イントロやライヴ・ヴァージョンを除くシングルとしては2曲目。アンディのドラムで始まり、「Leave The Door Open」同様ラリー・ゴールドと思われるストリングスがシタールやコンガなどと一体になってノスタルジックな響きを醸し出す。イントロから高揚感に包まれるアップ・テンポのダンス・ナンバーだ。プロデュースは今回もブルーノとDマイル。これまたフィラデルフィア・ソウル風だが、ブルーノなら「Treasure」(2012年)、アンディならケンドリック・ラマーを招いた「Tints」(2018年)のようなブギー・ファンクの流れを汲む曲だとも言える。“ドアを開けておくよ…君のために”と求愛する「Leave The Door Open」に続いて、“恥ずかしがらないで…こっちへ滑ってきなよ”と歌う「Skate」。ミュージック・ヴィデオも屋外に繰り出し、前曲ではレコーディング・スタジオでうっとりした表情を浮かべていた女性たちは今回、ローラー・スケートを履いてダンスをしている(出演者は前回と違うかもしれない)。夏の開放感とともに、コロナ禍における外出制限が緩和された米国の解放的な気分も反映したようなMVが伝える通り、「Skate」はスケートをテーマにしたスケーティング・ジャムだ。



ローラー・スケートで踊るローラー・ディスコは70年代後半から欧米で流行し始めた。ブラック・カルチャーのひとつとしても受け継がれ、2000年代後半からはムーディーマンが地元デトロイトで〈Soul Skate〉を開催し、デイム・ファンクをDJに招いた〈A Roller Skate Affair〉というディスコ・パーティが日本で行われたりもした。また、近年はディスコ・リヴァイヴァルの流れで、ローラー・ディスコの滑走シーンを映したMVも数多い。屋内スケートリンクで撮影されたMVならビヨンセの「Blow」(2013年)やアリシア・キーズの「Time Machine」(2020年)あたりが有名だろう。アンディが客演したドモ・ジェネシスの「Dapper」(2016年)も終始スケートリンクのシーンを映していた。今年公開されたコモンの「What Do You Say(Move It Baby)」やコリン・ホーソーンの「Sunday」(楽曲はともに2020年リリース)のMVも同様で、それらは「Skate」のMVに近い開放感がある。そんなローラー・ディスコのアンセムとして必ずと言っていいほど名前が挙がるのが、ヴォーン・メイソン&クルーの「Bounce, Rock, Skate, Roll」(1979年)。バウ・ワウ主演のローラー・スケート青春映画『Roll Bounce』(2005年)のサントラにも収録されたディスコ・クラシックだ。シルク・ソニックが参考にしたかどうかは別として、「Skate」はリリックの能天気さも含めて同曲の系譜に連なる曲と言っていい。





スケートといえば、ブルーノはVansの定番スケートボード・シューズ〈オールドスクール〉もよく履いている。2020年10月には、そのVans初のグローバル・ミュージック・アンバサダーに相棒のアンディが就任。タイアップを謳っているわけではないが、「Skate」を作る際にそのことも念頭にあったのではないか。一方、ブルーノはリッキー・リーガル名義でラコステと組んでブランドを立ち上げ、スポーティな服をデザインしている。さらにブルーノは自身のラム・ブランド〈セルバレイ〉にシルク・ソニックを紐付け、「Skate」の共作者であるジェイムス・フォントゥルロイが歌うラテン調のトロピカルなジングル(動画)も公開した。今思うと「Skate」の前哨戦、姉妹編とも言える小品だ。ブルーノの『24K Magic』にて大半の曲でペンを交えていたジェイムス・フォントゥルロイは、「Leave The Door Open」の共作者でベースも弾いていたクリストファー“ブロディ”ブラウンとともにLAのミュージック・コレクティヴ=1500 or Nothin’に籍を置くシンガー/ソングライター。彼もブロディやDマイルとともに主要な裏方としてシルク・ソニックをサポートしているのだろう。



そんな中、「Skate」にソングライターとして名を連ねているのが、21歳のフランス人キーボーディスト=DOMiと、ダラス出身の18歳のドラマー=JD Beckだ。ふたりは、ドラマーのロバート“スパット”シーライト(スナーキー・パピー/ゴースト・ノート/TOTO)のショウに起用された時に出会い、エクスペリメンタルなジャズ系デュオを結成。現在、DOMi & JD Beckとして活動している。サンダーキャットやフライング・ロータスをカバーした動画をアップし、マッドヴィレイン(マッドリブ+MFドゥーム)へのトリビュートも行っているとくれば、その音楽性は推して知るべし。今回はアンディとの交流をキッカケに参加したのだろうが、「Skate」での共作は、LAのシーンで注目を集めつつある彼らのターニングポイントになりうる大仕事になったのではないか。



既報の通り、アルバムは来年に持ち越しとなった。大半は完成しているものの、最終的な仕上げに時間を要するという。それまでにあと数曲、新しいシングルが聴けるかもしれない。アルバムにはダップ・キングスのホーマー・スタインワイスが一曲ドラムで参加しているとも聞く。その他、ソングライティングやバック・コーラスには先のジェイムス・フォントゥルロイをはじめとする西海岸R&B勢、特にDマイル周辺の仲間たちも起用されているのだろう。あくまで推測だが、SNSの投稿などから察するに、Dマイルと親しいH.E.R.やヴィクトリア・モネイなどがゲスト参加する可能性もある。

既発シングルで十分すぎるほど見せつけた圧倒的な歌ごころと夢見心地のサウンド。これまで数多くのミュージシャンが70年代ソウルに近づこうと腐心してきたが、その最高到達点はシルク・ソニックになるのかもしれない。それくらい強力なユニットなのだ。




シルク・ソニック
「Skate」
ダウンロード/ストリーミング:
https://SilkSonicJP.lnk.to/SkatePu




「Rolling Stone Japan vol.16」
※予約受付中

発行:CCCミュージックラボ株式会社
発売:カルチュア・エンタテインメント株式会社
発売日:2021年9月25日
価格:1100円(税込)

FRONT COVER:三代目 J SOUL BROTHERS
BACK COVER:SILK SONIC

特集「ソウルミュージックの源流を辿る」

●シルク・ソニック インタビュー
●コラム「シルク・ソニックの音楽的背景」(高橋芳明)
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※翻訳:小林雅明(シルク・ソニック、ディアンジェロ

Rolling Stone Japan
https://rollingstonejapan.com/

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