シルク・ソニックはどこへ向かう? ブルーノ・マーズとA・パークのソウル革命を紐解く

シルク・ソニック(Courtesy of Warner Music Japan)

ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによる話題のユニット、シルク・ソニックが9月25日発売「Rolling Stone Japan vol.16」のBACK COVERに登場。米ローリングストーン誌による最新インタビューを日本語訳して全文お届けする。

さらに、彼らを中軸に据えた特集「ソウルミュージックの源流を辿る」では、ディアンジェロが名盤『Voodoo』を語った2000年の秘蔵インタビュー、モータウン史上最高の70曲など多彩なコンテンツを通じて、ソウル/R&Bの真髄、豊潤な音楽的ルーツを紐解いていく(詳細は記事末尾にて)。

古のスウィートソウルを蘇らせたシルク・ソニックが、2021年の音楽シーンを席巻しているのはなぜか。この記事では彼らの動向を今一度整理すべく、音楽ジャーナリストの林剛に解説してもらった。


「Rolling Stone Japan vol.16」BACK COVER


突出した70sスロウバック

シルク・ソニックの始動が伝えられたのは今年2月末。突然の発表だった。同時にアルバム『An Evening With Silk Sonic』を年内にリリースすると予告(※2022年1月に延期)。3月5日に第1弾シングル「Leave The Door Open」を発表すると、70年代のスウィート・ソウルそのものな甘美でソウルフルな曲は瞬く間に日本を含めた多くの国で世代を超えて絶賛された。これまでのふたりの音楽性から、一発目のシングルは勢いのあるファンク調のダンス・ナンバーでくると思っていた。ところが、大方の予想に反して直球のスウィート・ソウル。その意外性も、両者のファンを超えてさらなる熱狂を生んだのだと思う。シングル発表から約10日後に行われた第63回グラミー賞授賞式では、ユニット初となるパフォーマンスを披露。アドリブを加えた同授賞式ヴァージョンもリリースされた。先日ダブル・プラチナムを獲得したシングルは既に全米ポップ・チャート1位をマークし、世界各国のチャートでも上位にランクイン。アンダーソン・パークにとっては、これが初めての全米チャートNo.1ソングとなった。本人も大いに喜んでいる。



グロッケンシュピールが鳴るイントロからスタイリスティックスやデルフォニックスといったトム・ベル制作のフィラデルフィア・ソウルを彷彿させる。オマージュを通り越したストレートすぎるクラシック・ソウルの再現。2021年にこんな曲を出してしまうのか?と思いながらも、美しいメロディやブリッジが織りなすドラマティックな展開、エモーショナルなヴォーカルに引き込まれてしまう。めくるめくソウル・ワールド。世の混乱とは無縁な桃源郷のようだ。過去にも、メイン・イングリーディエントの「Let Me Prove My Love To You」(1975年)を引用したアリシア・キーズ「You Don’t Know My Name」(2003年)、スタイリスティックスを意識したと思われるエリック・ベネイ「Never Want To Live Without You」(2010年)といった70年代スウィート・ソウルのリメイクはあったが、シルク・ソニックの70sスロウバックは群を抜く。




70年代のフィーリングは、MSFB〜サルソウル・オーケストラのチェロ奏者として往時のフィリー・ソウルの現場にいたラリー・ゴールドがストリングス・アレンジを手掛けていることも大きい。ゴールドは、90年代中期にフィラデルフィアにスタジオを設立し、ザ・ルーツを中心とする新世代のフィリー・ムーヴメントを陰で支えながら、R&B、ヒップホップ、ポップスのフィールドでストリングス・アレンジャーとして活躍。彼のストリングスは過去と現在の音を繋ぐ接着剤のような役目を果たす。加えて、本人たちのヴォーカルがこれまた懐かしくて新しい。ハスキーな声でラップっぽく言葉を乗せていくように歌うアンダーソン(以下、アンディ)と、裏声を交えて天に突き抜けるような声で歌うブルーノ。両者のバランスが絶妙なのだ。


Dマイル(Photo by Monhand Mathurin)

プロデュースはブルーノと、H.E.R.の曲でグラミー&アカデミー賞をダブル受賞するなど近年R&Bの裏方として絶好調なDマイル(ダーンスト・エミルII)。ふたりは2020年にリリースされたチャーリー・ウィルソンの「Forever Valentine」や嵐の「Whenever You Call」も手掛けており、それらもクラシックなソウル/R&Bを基調にしていた。フィリー・ソウルの薫りを強烈に感じさせる「Leave The Door Open」だが、アンディのレイドバックしながらも力強くグルーヴ感のあるドラムは70年前後のモータウン、ファンク・ブラザーズのユリエル・ジョーンズあたりも思わせる。ブルーノはSpotifyで〈Sounds That Inspired Silk Sonic〉というプレイリストを公開しているが、もしかすると着想源は、そこに並んでいたダイアナ・ロス&マーヴィン・ゲイ版の「Stop,Look,Listen(To Your Heart)」(スタイリスティックス曲のカバー)なのかもしれない。が、何かの曲にそっくりなようでいて、そのどれにも当てはまらない。過去の名曲にインスパイアされながらも、特定の曲へのオマージュではなく、70年代ソウルやそれに伴うカルチャー全体へのオマージュになっている。そこにシルク・ソニックとしてのオリジナリティがある。




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