ネブカドネザル、ヨブ記、黙示録…神学をモチーフにしたアイアン・メイデンの世界観【インタビュー】

「不吉な予感」は「ネブカドネザルの物語の続き」

ー「不吉な予感」のミュージックビデオには「ベルシャザルの饗宴」以上に多くのメッセージが込められているように思えます。あのビデオで表現したかったことは?

それぞれ異なるいろんな物語のハイブリッドなんだ。主役のキャラクターはひとまずダニエルってことにしておくけど、別にガンダルフでもオビ・ワンでもいいんだ。フードを目深にかぶったその男は貧しく抑圧された大衆の味方で、彼がならず者たちをなぎ倒すところはモーセの紅海横断のオマージュなんだ。このビデオの場合は、紅海っていうより緑海だけどね。

「不吉な予感」はベルシャザルの饗宴のことだけど、あれは自分が野獣に変身すると信じ込んで雑草を食べ始める気の狂った王様、ネブカドネザルの物語の続きなんだ。ヤギに変身した悪役を壁に身を打ち付けるっていうあのビデオのアイデアはそこから来ていて、ヨハネの黙示録の四騎士が悪いやつらとエリートと雑魚どもに鉄槌を下すっていうストーリーに適ってるんだよ。



ーあなたが共同作曲した「過ぎ去った未来の日々」と「戦術」の2曲の歌詞は、審判の日をテーマにしています。世界の終わりについて、あなたはどんな考えをお持ちですか?

俺自身は世界の終わりは本質的に存在しないと思ってるけど、今目の前にある現実を不快に思っている人々は、そういう概念に安らぎのようなものを求めてるんだよ。

現実の複雑さから目を背けようとする人々にとって、破滅的な未来像っていうのは自分のアイデンティティの一部になりうるんだよ。最近よく耳にする、反ワクチンとかそういうプロパガンダを掲げている人々がいい例さ。聖書を読むまでもなく、破滅的な未来像を描いたものって至るところにあるから、そういうのを信じようとする人々がいることは理解できるよ。人間は半ば定期的に、そういうのを自ら作り上げてきた。2000年にはバグによって世界が終わるって言われてただろ? 小惑星が地球に衝突するっていうのもあった。世界の終わりを描いたシナリオは無数に存在するけど、どれひとつとして現実になっていないからね。

今俺はオックスフォード大学の心理学の教授で、サイコパス研究とかの第一人者でもあるケヴィン・ダットン教授と一緒にポッドキャストをやってるんだけど、興味深いことに番組のゲストの1人が聖書学者で、世界の終わりと破滅的な未来像を専門に研究している終末論者だったんだ。どっかの山頂で定期的に集まって「もうすぐ世界が終わる」なんて言ってる人々について議論したんだけど、興味深かったよ。もちろんその予言は外れるわけだけど、そいつらは懲りずにその翌年にも集まってこんな風に話してるんだ。「どうやら少し計算間違いをしていたらしい。だが世界は確実に終わる」

世界の終わりっていうイメージは、曲のテーマなんかには持ってこいだと思うよ。悪魔と神様、善と悪、そういう白と黒の対比はドラマチックだからね。でも俺自身は曲を書く時、少しひねくれたユーモアを加えるようにしてるんだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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