ヴァクシーンズが語る衝撃のデビュー作とバンドの10年史、分断の時代に鳴らす「Love」

ヴァクシーンズ(Photo by Frank Fieber)

ザ・ヴァクシーンズがダンサブルなシンセ・ポップに挑戦!と聞けば、眉をひそめるリスナーは少なくないかもしれない。なぜならちょうど10年前の2011年、彼らが1stアルバム『What Did You Expect from The Vaccines?』で登場したときに多くのリスナーを魅了したのは、ラモーンズや初期クラッシュ直系のパンク・ロック・サウンドだったから。青臭い疾走感と熱いシンガロング・メロディーを武器にしていたバンドが、ディスコ・ビートとシンセ・サウンドを果敢に導入と言われても、迷走か、はたまたセルアウトかという印象を抱いてしまうことには無理がないだろう。

その一方で、大ブレイクした1stアルバム以降も彼らの足取りを追ってきたファンであれば、今回の変化もすぐ受け入れられたに違いない。なぜならヴァクシーンズは作品ごとに音楽的なトライアルをみずからに課し、それらを優れた作品として結実させてきたからだ。特に人気の高い初期2作に埋もれがちだが、デイヴ・フリッドマンを迎えサイケデリアを描いた3作目『English Graffiti』(2015年)、70~80年代のパワー・ポップを意識した4作目『Combat Sports』(2018年)などの作品においても、彼らは持ち前のソングライティング・センスを活かしながら、色味は違えど鮮やかなギター・ロックをモノにしてきた。

ニューアルバム『Back In Love City』においても、ヴァクシーンズ・メロディーは少しも翳っていない。むしろ未来的なシンセサイザーとエレクトロニクスをまぶしたことで、ますます眩さを増しているように思う。加えてギター・サウンドはデビュー時のバンドを彷彿とさせるほどに溌溂としており、あらためて「ヴァクシーンズって本当にいいバンドだな」と再認識させられるアルバムに仕上がっているのだ。では、キラキラと光を放つ愛の街=Love Cityへの帰還の物語で、彼ら5人が伝えたかったことは何なのだろうか。ギタリストのフレディ・コワンに尋ねた。



―「Vaccine」(ワクチン)という単語を見ない日はこの一年ないわけで、あなたたちにとっても奇妙な気持ちで過ごされているんじゃないですか?

フレディ:あくまで自分的な解釈だけど、これまで「Vaccine」というのはあまりポジティヴなイメージの単語ではなかったと思うんだ。もちろん今だって、一定数反対派の人たちがいるのは理解しているけど、それが今こうして世界中で使われるようになって。なんというか、すごくタイムリーではあるよね。それもヴァクシーンズ(The Vaccines)のアルバムが出るタイミングっていうんだから、おもしろいよ。そのおかげで注目が集まっているのかどうかは判断できないけれど、あえていうなら、世界との繋がりが深まったような気がする。

―コロナ禍での生活はあなた自身やバンドのサウンドに影響しましたか?

フレディ:もちろん。ロンドンに住んでいる時にロックダウンがはじまったんだけど、メンバーとも1年以上顔を合わさないって状況になって。おかげでその1年という期間、まるっと『Back in Love City』に手を加えることができるようになったんだ。通常ならツアーが先に決まっていたり、時間に追われる中でなんとかリリースにこぎ着くような状況だけど、この余白ともいえる時間でレコーディングの内容について改めて振り返ってみて、『Back in Love City』をよりよい作品にできるという結論に至ったんだ。結果的に、たった12日間でレコーディングした作品のポストプロダクションに12カ月もの時間をかけることになった。ただ今回で、自分にとってはこのタイムフレームが正解のように感じたよ。本来ならアルバムの制作期間がたった2カ月で、そのあと2年間もツアーをするなんてサイクルは健全じゃない。アルバムの制作にこそじっくり時間をかけるべきなんだ。だって作品はバンドの財産だろう?

Translated by bacteria_kun

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