Park Hye Jinから辿る韓国シーン最前線 K-POP隆盛の裏で何が起こっている?

Park Hye Jin(Photo by Dan Medhurst)

Park Hye Jin(パク・へジン、박혜진)のデビュー・アルバム『Before I Die』が話題となっている。韓国といえばK-POPだが、オルタナティブな音楽シーンも面白い。そのなかでも国際的な注目を集め、独自のポジションを築いてきた彼女の魅力とは? ソウルと東京を行き来するイベントオーガナイザーで、韓国インディーシーンに精通している内畑美里に解説してもらった。



韓国アンダーグラウンド・シーンの活況

世界中を虜にしているBTS。彼らは9月23日、国連総会で3度目のスピーチを行い、9月30日にはコールドプレイとのコラボ楽曲「My Universe」を公開。コロナ禍においてもホットな話題を、常に我々リスナーに提供し続けてくれている。

2019年、BLACKPINKはアメリカのコーチェラ・フェスに、K-POPアーティストとして初出演を果たし、ラインナップ発表時は日本でも大きな話題となった。メンバーのLISAは9月13日にソロデビュー。「LALISA」のMVは公開初日、瞬く間に動画再生数1億回を突破。世界中から集まる期待と関心の高さが窺えた。ROSEも9月、アメリカ版VOGUE誌が主催するファッションの祭典「メットガラ」に出席し、世界的トップスターとしての確かな存在感を示した。

アーティストとして、ファッションアイコンとして、社会への取り組みなども含め、多角的な魅力を持つK-POPアーティストの彼ら彼女たちは世界中から注目を集め続けている。世界が注目する韓国音楽シーン。イメージとしては先述したようなK-POPアーティスト、または韓国のメインストリームの一つの柱であるヒップホップ、R&Bなどが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか。

では、アンダーグラウンドシーンはどうだろうか。韓国ソウルの繁華街、弘大(ホンデ)では90年代後半よりクラブ産業が一気に盛んとなり、今もその盛り上がりはエリアを拡大して健在。ここ数年は梨泰院(イテウォン)を中心にクラブシーンは成熟期を迎えていて、UKガラージや2ステップ、グライムなどとテクノやハウスをジャンルレスにミックスしたり、K-POP楽曲を取り入れてプレイするなど、DJスタイルは無限の広がりを見せている(コロナ禍の現在はクラブ営業をストップ、ストリーミングに移行している場所やポップアップなどで日中稼働している場所が多い)。

コロナ禍以前の2017年〜2019年辺りは韓国のトラックメイカー/DJの来日が活発で、双方のクラブシーンの交流が盛んだったのも記憶に新しい。ここ数年の来日公演やメディアの紹介を通じて、韓国のアーティストを知り始めた人も多いのではないだろうか。

2017年、渋谷WWW/WWW Xのニューイヤーパーティーで初来日を果たした、韓国のDJ/トラックメイカーYaeji(イェジ)。

韓国にルーツを持ち、現在はNY在住。2017年にリリースされた「Drink I’m Sippin On」は、歌詞が韓国語と英語で構成されており、サビで繰り返し歌われる“그게 아니야”(クゲアニヤ/そうじゃない)のフラットな歌唱とダウンテンポなハウス・ミュージックでブレイク。その名は世界に広がり、ブレイク後の韓国凱旋ライブは入場規制がかかるほどの盛り上がりであった。同年のBoiler RoomでのDJセットではマイクを握り、自身のトラックを歌いながらヒップホップ、ブレイクビーツ、テクノなどバラエティに富んだミックスを披露。アーティストとして、DJとしてその類稀ないセンスを証明するものだった。



2018年に2度の来日をしている韓国のエレクトニック・アーティスト/シンガー、CIFIKA(シフィカ)。

エレクトロニック・サウンドをベースとし、今のソウルのアンダーグラウンド・シーンを象徴するような、エクスペリメンタルなエッセンスを散りばめた美しさ際立つモダンアートのような音楽を展開。彼女もまた、Yaejiと同じように韓国語と英語を歌詞に反映させている。韓国のラッパーCrushや、ロックバンドHyukoh(ヒョゴ)のオ・ヒョク、シンガーソングライターのシン・ヘギョンとコラボするなど、ジャンルを飛び越えた合作を積極的に行っているのも特徴的である。



他にも、「東洋の女性」としてのカウンター、誰もが否定できない一つのリプリゼンテーションを音楽で目指すLim Kim、伝統音楽の思想を現代音楽とリンクさせ、再構築した音楽を展開しているHAEPAARY、元々はレゲエ/ダブのバンドとして活動、現在は韓国・チェジュ島で生活しながら日常で感じる音をフィールド・レコーディング〜アンビエントに落とし込んだ作品を作っているBeck Junghyun、ニュージーランドと韓国にルーツを持ち、家庭環境や恋人の話、言語の壁から感じた孤独や疎外感を歌うFlash Flood Darlingsなど。彼ら彼女たちは共に様々な場所にルーツを持ち、何か一つのスタイルに収まるのではなく自分自身が生きた文化、言語、環境が音楽そのものとして存在しており、その凛とした独創性が魅力的だ。






Park Hye Jinという新しい才能

ネクストブレイクとして名高いPark Hye Jinも同様だ。実はまだまだ韓国国内では知名度の低い彼女だが、海外ではここ数年で大きな注目を集めている。

Park Hye Jinは1994年、韓国ソウル生まれ。2015年頃よりラッパーとして活動をスタート。2017年頃からプロダクションやサウンドメイキングを学び、2018年に梨泰院にあるクラブ「PISTIL」で1年半ほどレジデントDJを務め、DJとしてのキャリアもスタート。様々な経験のもと、現在のラッパー/シンガー/DJ/プロデューサーという肩書きになった。

そしてあるとき、「もうソウルで出来ることは全てやり尽くした」と悟ったPark Hye Jinは、単身メルボルンへ移住。ロンドンでの生活を経て、現在はLAを拠点に活動している。


左から『If U Want It』『How can I』ジャケット

オーストラリア・メルボルンの音楽レーベルclipp.artより発表したEP『If U Want It』(2018年)は海外メディアで高い評価を受け、12インチのヴァイナルは瞬く間に完売。そのフレッシュな音像は瞬く間にリスナーを虜にした。その2年後、2作目のEP『How can I』がイギリスの音楽レーベルNinja Tuneよりリリースされたことに驚いた人も少なくなかっただろう。彼女の作品はヨーロッパを中心に「ヒップな新人アーティスト」として浸透。クラブカルチャーの有力メディアであるMixmagは「2020年、最もブレイクしたアーティストの一人」と評し、Pitchfork、I-D、Hypebeastなど、インディーロック寄りのメディアやカルチャー誌でも先鋭的アーティストとしてピックアップされた。

そのように勢いが加速していくなか、満を持してリリースされたのがデビューアルバム『Before I Die』である。

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