『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』監督が語る、作品への情熱と制作秘話

キャリー・ジョージ・フクナガ(ロンドン、2020年) Hollie Fernando for Rolling Stone

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の監督キャリー・フクナガという"一匹狼”が、ダニエル・クレイグによる最後のジェームズ・ボンド作品を引き受けた経緯と、その後の長く曲がりくねった道のりについてローリングストーン誌に語ってくれた。

「その画面の隅でチョロチョロ動いているのは、いったい何だ?」

ロンドンにある編集室で、キャリー・ジョージ・フクナガは長椅子にドカンと腰を下ろした。スムージーをすすりながら、サンダル履きの足を組んで神経質に揺らしている。42歳になる映画監督がチェックしているのは、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のオープニングシーンだ。25本目のジェームズ・ボンド映画で、主演のダニエル・クレイグにとって最後の007作品となる。彼がOKを出した10分間のオープニングシーンは、とても感動的なテキストから始まり、石橋の欄干を乗り越えて30m下へ飛び降りるボンドらしいスパイのアクションシーンへと展開する。

複雑なセットアップで準備に3か月かかった、とフクナガ自身が後に認めている。動きが激しく、理想の橋と息の合ったスタントチームを探すのにも苦労した(ロケ地は最終的にイタリアのマテーラに決めた)。しかしフクナガの頭を悩ませたのは、そんなことではない。あるカットアウェイのシーンで、大理石の墓碑の端を小さなハエが飛び回っていたのだ。ハエはVFXで削除されていたはずだった。しかしまだ実際に映り込んでいる。仕上げの最終期限まで1か月もない。フクナガのイライラはさらに高まる。素早く黙々と試行錯誤する。すると彼は、すぐに問題を解決できることを確信した。イライラは収まった。「今進めているのは、気になるものをヤスリで削る作業さ」と彼は語る。「とても細かい作業だが、とても重要で難しい仕事なんだ。」

幸いにもフクナガは、大きな障害の立ちはだかる絶体絶命の状況に強い性分を持つ。日本人とスウェーデン人の血を引くかつてのスノーボーダーは、米国のベイエリアで生まれ育った。彼は2年かけて中米で移民たちと列車で旅行しながらリサーチを重ね、デビュー作で後に受賞もした『闇の列車、光の旅(原題:Sin Nombre)』(2009年)を製作した。「国境を越えたスリラー」の後は、何か全く違う作品を作りたくなり、有名なゴシック作品を脚色した『ジェーン・エア(原題:Jane Eyre)』(2011年)を手がけた。その後はテレビの世界へ方向転換し、当時はまだ珍しかったアンソロジーシリーズ『True Detective/二人の刑事』の全エピソードを監督した。2人の映画スターが主役を演じたが、これもまた珍しいことだった。マシュー・マコノヒーがスキンヘッドの白人至上主義者グループとの激しい銃撃戦を繰り広げるファーストシーズンは、HBOで放映され大ブレークした。次の作品『ビースト・オブ・ノー・ネーション(原題:Beasts of No Nation)』では、アフリカの少年兵の悲惨な物語を描いた。フクナガは監督と同時に撮影も担当し、体調を崩したり死にそうな目にも遭っている。全ては、フクナガが自らに課したチャレンジだったのだ。

彼は、大ヒット作品を次のキャリアのピークにしたいと考えていた。だから、クレイグが『007 スペクター(原題:Spectre)』(2015年)を最後にボンド役を降りるとの噂を耳にしたフクナガは、007シリーズのプロデューサーを務めるバーバラ・ブロッコリに売り込みをかけた。「彼女に手紙を書いた」と彼は証言した。「シリーズの次のプランやスタッフについて聞きたかったのと、自分が監督に選ばれる可能性があるかどうかを知りたかった。ボンドについての取り留めのないアイディアを並べたが、それっきりになっていた」という。そのまま時が経ち、フクナガは別のプロジェクトに取り掛かった。途中で降りることとなったが、スティーヴン・キングの小説『IT』を原作とした作品を手がけた他に、19世紀のシリアルキラーと犯罪心理学者の対決を描いたテレビシリーズ『エイリアニスト(原題:The Alienist)』や、ジョナ・ヒルとエマ・ストーン主演のNetflix向けリミテッドシリーズ『マニアック(原題:Maniac)』で監督を務めた。

Translated by Smokva Tokyo

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