『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』監督が語る、作品への情熱と制作秘話

『マニアック』の製作が終わりに近づいた頃、フクナガは、クレイグが最後に1作品だけボンド役を演じる決断をし、当初監督を務める予定だったダニー・ボイルが降板したことを知る。「ニュースを目にするまで、新たなボンド作品の企画が存在したことすら知らなかった」とフクナガは言う。「どうせ僕ではなく、他の誰かと浮気するつもりなんだろうと思ったよ」と笑う。そこで彼は再び手紙を書く。そして2018年9月、彼はプロデューサーのバーバラ・ブロッコリのニューヨークにあるアパートメントで、マイケル・G・ウィルソンらも交えて新作についてのアイディアを出し合った。「彼らの方向性は既に固まっていた」とフクナガは振り返る。「しかしいくつかのキャラクターが決まっていただけで、ストーリーも敵役も白紙の状態だった。だから、“これまではこうで、今度はこういう方向性にしたいけれど、あなたはどう思う?”という感じで、まるでブレインストーミングのような話し合いになった。自分が監督になれば何ができると説明するようなレベルではなく、具体的なアイディアのブレイクダウン作業が既に始まっていた。つまり、僕が次作の監督に最も相応しいなどと説得するような段階ではなかったのさ。」

数週間後、フクナガは主役のダニエル・クレイグと直接会話を交わした。クレイグはフクナガの過去の作品についてよく知っていた(「キャリー(フクナガ)はとても個性的な映画制作者で、思い切った決断のできる人間だと思っている」とクレイグはメールでのインタビューに答えている。「ボンド作品を取り仕切るには、英断を下せる人間が必要だ」)。意気投合したフクナガとクレイグは多くのアイディアを交わし、クレイグの演じたボンド作品の良かった点や(クレイグ曰く)良くなかった点について、話し合った。その後も作品のアウトラインやストーリー要素などについて、話し合いが重ねられた。ふと気がつくとフクナガは、製作費2億5000万ドル(約280億円)の映画を監督することとなり、フィービー・ウォーラー=ブリッジら脚本家チームの一員となっていた。3か国での撮影が開始され、彼はシリーズ初の米国人監督となった。売り込みが功を奏したのだ。


ダニエル・クレイグとキャリー・フクナガ監督(Photo by Nicola Dove)

世の中には、007シリーズにまつわるデータが頭に入っていて、洒落の効いたセリフを引用したり、個人的なトップ10リストを作成するような熱狂的なボンド・ファンがいる。また、誇大妄想の敵役、「ボンドガール」、秘密兵器、世界を股にかけた活躍、ジョン・バリーによるテーマ曲、オープニング・タイトルなど、大抵は予定調和の結末に落ち着くとわかっていても、いつもの習慣で喜んでチケットを購入してボンドの新作を鑑賞する映画ファンもいる。キャリー・フクナガは、後者の映画ファンに分類されるだろう。彼が初めて見たボンド映画は『007/美しき獲物たち(原題:A View to a Kill)』だったと、彼自身は記憶している。その後、ピアース・ブロスナン時代の作品からしっかりと見始めた。中でも『ゴールデンアイ(原題:Goldeneye)』がお気に入りだったというが、同作品がビデオゲーム化されたという理由による。特に好みの作品を挙げるならば、ジョージ・レーゼンニーが唯一ボンド役を演じた『女王陛下の007(原題:On Her Majesty’s Secret Service)』だという。フクナガは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』へ参加するにあたり、幾度となく見返している。

Translated by Smokva Tokyo

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