『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』監督が語る、作品への情熱と制作秘話

それでも作品はほぼ完成していた。フクナガは、長くハードな製作作業を何とか乗り切った。撮影中に主役が負傷し、監督のフクナガが英国のタブロイド紙からの批判にさらされたこともあった。英国では2021年4月3日、米国では4月8日と公開予定日が設定され、ゴールラインが迫っていた。「終わりが見えてワクワクする」と、フクナガはジョークを飛ばした。

3度目にインタビューした2021年8月の終わりに『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、コロナ禍で上映が延期(しかも一度以上)された最初のメジャーな映画作品となった。「最初のPRイベントまで数週間という時期に、“本当にやるのか?”という感じだった」とフクナガは振り返る。作品の仕上げ段階にある中で、フクナガは「中断の圧力」を感じていた。「僕の初作品も(2009年の豚インフルエンザの)パンデミックと重なり、メキシコの映画館が閉館していた。だから僕にとって今回は、デジャヴ的な体験だ。どんなプロジェクトでも、次につながる。だから、もしも自分の作品が日の目を見ず、それでも仕事を続けなければならないとしたら、どうだろうか。」

米国へ帰国したフクナガは、ニューヨーク州北部で数週間のオフを過ごした。ロンドンでの最初のインタビューで彼は、スタンリー・キューブリックが実現できなかったナポレオン映画を完成させるという夢のプロジェクトについて語っていた。同作品はテレビのリミテッドシリーズとして放送される予定だったが、延期されている。彼はまた、ある映画の再編集に携わった(ハリウッド・リポーター誌によると、作品はマーク・ウォルバーグ主演の『ジョー・ベル(原題:Joe Bell)』だという)。さらに、第一次世界大戦中の兵士を描いたテレビシリーズの脚本の書き直しも始めたという。根を詰める作業に疲れたフクナガは2020年夏、ギリシャでペリエ向けのCM撮影の仕事を引き受けた。撮影中にフクナガは、トム・ハンクスとスティーヴン・スピルバーグがプロデューサーを務める第二次世界大戦をテーマにしたアンソロジーシリーズ『Masters of the Air(原題)』の依頼を受けた。同シリーズは、「ブラディ・ハンドレッドス」の異名をとる米軍の爆撃部隊を扱った『バンド・オブ・ブラザース(原題:Band of Brothers)』の続編的な作品だ。「電話を受けた時に僕は撮影でミロス島にいて、翌年の仕事をどうしようかと考えているところだった。ボンド映画もいつ公開されるか未定だったので、“とにかくやってみよう”という感じで仕事を受けた。」

『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開日が米国では2021年10月8日に決定し、フクナガ監督がボンドに別れを告げる時が来た。大ヒットシリーズの監督という心身ともに消耗する経験を振り返ったフクナガは、映画制作のプロセスに対する深い造詣を身につけた。「かつては正に“群盲象を評す”状態だった」と彼は言う。「以前の僕は目の前に見えるものしか理解できず、“全体はどんな感じだろうか?”と想像することしかできなかった。まだまだ未熟者だった。」

「ところが今や、4番バッターになろうとしている」と、4本の作品の上映を控えた彼は続ける。「それでも、クリーンアップを務めるのは厳しい。満足のいく方法で全てを詰めて、ストーリーを固めるのが最も難しい作業だ。ダニエルのボンドを仕上げるのは自分にとっての責務だったが、やりがいはあった。自ら望んだチャレンジだった…と思う」と彼は笑う。「でも今回やり遂げることができたので、次もまた同じようにやるだけだ。」

From Rolling Stone US.

Translated by Smokva Tokyo

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