BIGYUKIが語る、ブラックミュージックの最前線で戦う日本人としての経験と葛藤

「ベース」というアイデンティティとの向き合い方

―それまでなかなか一緒にやることのなかった、中村恭士やエリック・ハーランドというストレートアヘッドなジャズの世界最高峰とトリオをやるのは刺激的だったのでは?

BIGYUKI:怖いですよね。普段は仲良く遊んでるけど、やっぱこいつらかっこいいなってなりますよね。恭士のベースはすごいから。俺の演奏をものすごく聴いてるし、俺が弾くフレージングを全部補完してる。俺がそのフレージングをどこに落とし込みたいか、どうやって次の段階に行きたいかを彼は全部わかってる。ジャズ・ミュージシャンって反応速度と演奏の選択の精度がほんとにヤバいなと思います。その中でも恭士はヤバヤバですね。それにエリックのリズムも音楽の膨らませ方もすごいから。素直に自分の友達はすごいなって思いましたね。

―でも一方で、そういう「ジャズ・ミュージシャンのヤバさ」を広くプレゼンするのが難しいという側面もあると思うんですよね。それをこういう形でパッケージングして届けているのも、今回のアルバムの面白いところだと思います。

BIGYUKI:そこもビビらなくなってきた部分はあるのかもしれない。自分の音楽を確立できているから、周りの友達がやってる、自分では演奏できないような音楽を素直にかっこいいと受け止められるようになったというか。俺なりにその要素を(自分の作品に)持ってきたいと思うようにもなりましたし。

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左から中村恭士、BIGYUKI、エリック・ハーランド

―3曲目「​​Tired N Wired」には羽鳥美保さん(元チボ・マット)と共に、ゴースト・ノート(スナーキー・パピーのロバート“スパット”シーライトとネイト・ワースが率いるバンド)のサックス奏者、ジョナサン・モーンズが参加しています。彼を起用したのも「ライブ感」をアルバムに取り入れるためなのかなと思いました。

BIGYUKI:彼はBlaque Dynamiteことマイク・ミッチェル(10曲目「Storm」に参加)と同じテキサスの仲間で、モノネオンと一緒にセントラルパークのサマーステージで演奏するためにNYに来ていたから、こうやって参加してもらうことができました。モノネオンも「ベースがほしかったら連絡ちょうだい」って言ってくれたから迷ったけど、今回は違うかなと思って頼まなかった。

今まではベースを弾くことに自分のアイデンティティを見出していたんだけど、別に弾かなくてもいいかなと思うようになったのはある。もし入れるんだったら、俺よりもヤバいベーシストを入れたい。普段、マーク・ジュリアナやマイク・ミッチェル、エリック・ハーランドみたいな凄いドラマーを入れたいと思うのと同じように、ベーシストを入れるとしたら恭士やモノネオンのような、確固たる演奏技術の上に強烈なオリジナリティを持った連中とやりたいですね。


モノネオンとゴースト・ノートのパフォーマンス映像

―ミュージシャンとして少し余裕ができてきたのかもしれませんね。以前は「俺はベーシスト、ベースは俺が弾く」って感じでしたけど。

BIGYUKI:確かに。自分のアイデンティティをシンセベースとそのグルーヴに見出していたから。でも、キーボーディストというよりもミュージシャンとして総合的に見た時に、そういうのもアリだと思えるようになりました。俺の視点がもっと上の方にいったんだと思います。

―これまでBIGYUKIの作品にベーシストって入ってないですよね。

BIGYUKI:一回も入ってないですね。

―中村恭士が入っているのは、とても大きな変化なんですね。

BIGYUKI:ライブではどうしようって感じですけどね。これからのやり方に関しては考えていて。Abletonを使って、そこに何らかのスポンティニアス性を維持するやり方を見つけられたら、フルバンドでやらなくてもいいんじゃないかって、パンデミックをきっかけに思い始めました。ソロピアノでライブをやったことで、そこには責任やリスクもあるんだけど、意外とひとりでもできるかもって考えるようになったのもあります。

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