BIGYUKIが語る、ブラックミュージックの最前線で戦う日本人としての経験と葛藤

「アルバムは投資」共演陣について

―話が前後しましたが、前述のジョナサン・モーンズを起用した理由を聞かせてください。

BIGYUKI:瞬発力ですね。ここは瞬発力が欲しかったから。フレージングだけじゃなくて、変な音を出してほしいと頼みました。彼はテキサスのメーカーが作ってるサックス用のペダルを持っていて、EWIではないサックス型シンセみたいな音が出せる。彼が録ったテイクから削っていって必要な部分だけ残したんですけど、ちゃんとしたフレージングは要らないって感じで、本能がほとばしっている音だけが入ってます。この曲の短い時間の中でどれだけ存在感を出せるかという意味で、彼の演奏は完璧ですよね。

―エリック・ハーランドの他にも、マーク・ジュリアナ、Blaque Dynamiteも参加していて、それぞれが全く異なるキャラクターで叩いてるのが最高ですね。

BIGYUKI:特に「Storm」はそれが欲しかった曲。Blaque Dynamiteにはとりあえず「クレイジーに叩いて」と言いました。



BIGYUKIとBlaque Dynamiteの共演ライブ映像

―9曲目の「Duck Sauce」はものすごくマーク・ジュリアナ的な演奏ですね。

BIGYUKI:ブレイクビーツ的な緻密さがいいですよね。最初にマークが送ってくれたドラムはかなりリヴァーブがかかってて音像が大きかったけど、マークが昔やってたHeerntというユニットの、変なところですごくドライな音が鳴ってる感じのサウンドがほしいと頼んだんですよ。NYの地下室でジャムってる感じの緻密なブレイクビーツですね。この曲はシンプルだからライブでやったらもっと進化していく可能性があって、楽しみですよね。




―羽鳥美保さんやアート・リンゼイも参加していますが、今まであまり付き合いがないコミュニティなのかなと思ったんですけど。

BIGYUKI:俺はあまり共演の機会はなかったけど、そこを繋げられるのが(共同プロデューサーの)ポール・ウィルソンなんですよ。美保さんは一緒にライブをやったり、彼女のアルバム『Between Isekai and Slice of Life』(2021年)でも弾いています。

8曲目の「LTWRK」はポールの才能がいかんなく発揮されてますよね。リズムのレイヤーもすごいし、そこにダンスミュージックへの理解度も出ている。ここではフットワークをやってるんだけど、リズムをひとつずつ外して、ステムごとに聴くとびっくりなんですよ。「こんなことになってるの⁉︎ これってドラマーは叩けるの?」みたいな感じで、彼のプロダクションはアートですね。



―フットワークをやろうというのは誰のアイデアなんですか?

BIGYUKI:俺がフットワークの曲が作りたいってポールに頼みました。今、自分の中でフットワークがかっこいいと思っていて。フットワークには音楽的にアヴァンギャルドになりうる自由度がある。フットワークを好きなやつはNYにもいて、DJも多いんですよね。

あと、ポールはミックスもやってくれている。ポールは俺の音楽を最も理解してくれてるし、音楽的な解像度も高いから、お互いのイメージを共有するのにも時間がかからないのもいいんですよ。

そして出来上がった曲を、ケンドリック・ラマーやアール・スウェットシャツにも携わってきたマイク・ボッツィがマスタリングしてくれました。マイクはかなり音を上げるんだけど、それでいてうるさくない音を作ってくれる。彼は他にもカッサ・オーバーオールの『I THINK I’M GOODなど、ポールが関わってるジャズ周辺の仕事をマスタリングしている。でも、ラジオヒットにも関わっていて、グラミーも獲ってる。彼独自のカラーもあるし、何をやっても今の音になる。

彼のことはカッサが紹介してくれて、マスタリングの金額を聞いたら予定していた額を超えていたけど、カッサは「アルバムは投資だと思っているから、マスタリングにはこのくらいの価値があると思って普通に払った」と言ってたから、俺も納得してすぐに決めたんですよね。


BIGYUKIが演奏で参加した、カッサ・オーバーオール「I Know You See Me」

―今回のプロダクションで特にこだわったところは?

BIGYUKI:「OH」はかなりの部分を自分で作ってます。最後のブラッシュアップはポールだけど、ドラムも自分でサンプルを見つけてきて、自分で(ビートを)組んでいる。ロックダウンになってから最初に作った曲で、時期としてはCHAIに曲を提供していた頃。あの頃は練習のつもりでどんどん曲を作っていて、CHAIに書いた曲もそういうアイデアからできた曲のひとつでしたね。


BIGYUKIがプロデュースした、CHAI「チョコチップかもね」

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