松本隆が描いたエロティシズム、80年代後半から90年代前半までを辿る

菩提樹 / 五郎部俊朗

1992年10月に発売になった五郎部俊朗さんのアルバム『冬の旅』の中の「菩提樹」です。メロディは学校の音楽の時間に聴いたという方々がたくさんいらっしゃると思うのですが、アルバム『冬の旅』はシューベルトの3作の歌曲、歌のある曲の1枚です。そこに日本語をつけている。歌っている五郎部俊朗さんは藤原歌劇団のテノール歌手です。

シーンから身を引いた松本さんが何をやっていたかと言うと、古典なんですね。歌舞伎とか能、オペラとかクラシックを見漁っていた。もともと子どもの頃、ビートルズとかブリティッシュロックに目覚める前はクラシックを聴いていた経験もあるわけで、彼の中ではそういう要素がずっとあるわけですが、そこにきちんと目を向けていなかった、それを活かしていなかった。自分の中に足りないのは古典の要素だったのではないかということで、お休みしている間にこういう音楽を聴いたりしていて念願だったシューベルトに詞をつけたというアルバムですね。

薬師丸ひろ子さんの1986年のアルバム『花図鑑』の中にはモーツァルトに日本語詞をつけたものもあるんですね。日本語でクラシックを聴くという試みは、最近平原綾香さんがおやりになっていますけども、松本さんがつけた言葉でクラシックを聴くと、全然聴き方が変わるなというのはあらためて思ったことですね。言葉がない音楽、言葉が分からない音楽と思い込んでいたものが、実はこういう歌だったんだということで目が開かれるような気がしました。1993年に出た大竹しのぶさんのアルバムがクラシックに日本語詞をつけたものでした。アルバム『天国の階段』から「悲しみの果て」。

Rolling Stone Japan 編集部

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