筋肉少女帯が語る、自分たちが描いてきた世界になってしまった戸惑いと使命感

―それで言うと、「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」は、こんな歌詞がくると思わなかったのでは?

橘高:そうですね(笑)。30年以上前からそうなんだけど、「イワンのばか」なんかは合宿所で書いた曲で、大槻君に聴かせたら「う~ん、これは「イワンのばか」だね」って言われたのをよく覚えてます。そういう、メタルヘッドの俺にはまったく想像がつかないものをパッと出してくるのが、筋少の面白さだと思っていて。今回の「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」も、想定を超える「してやられた」最たる曲です。

大槻:橘高君のメタルはある意味様式美というか、概念的に言うと、彼の中のロックンロール的なものが定番としてあって。ロックンロールって基本的に、意表を突くことは歌わずに、「おまえが好きだ」みたいなことのみを歌っているところがいいというのもあるので、もしかしたら歌詞もあまりひねらないで同じことをずっと歌う方が正しいのかなとも思ったんです。ただ、おそらく筋肉少女帯のリスナーと橘高君自身はそれを望んでいないだろうと。文法や方程式に合わなくても、奇妙な詞を書いてほしいんだろうなと思って、今回は「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」という話を持ってきました。だけれども、定型通りの様式美もあっていいと思って、この曲には「ゾンビリバー ~ Row your boat」(『ザ・シサ』収録)のセリフとほぼ同じセリフを入れてみました。

橘高:よく “お城を建てるようなソロ” って言ってるんだけど、アドリブソロの後に、お城が構築されてそびえ立つような部分がツインリードの決めソロであるんです。実際、「ゾンビリバー ~ Row your boat」はアドリブソロの締めにセリフパートがあって、その後にお城パートが来るんです。「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」も同じ構成なんだけど、そこへの橋渡しで同じところに同じニュアンスのセリフを入れていてセルフパロディみたいな印象になるんだけど、そこが大槻君が意図した様式なんだろうね。

大槻:ブルース・スプリングスティーンが若い頃に、地元の楽器をできるやつを集めてチャック・ベリーのバックバンドをやることになった話があって。チャック・ベリーはスーツケース1つでやってきて、リハもやらないんですって。本番10分前にきてギターを持って出てきたから、さすがにブルース・スプリングスティーンが「すいません、何の曲をやるんですか?」って訊いたら、「決まってるだろ、チャック・ベリーの曲だ。ワンツースリーフォー!」ってライブを始めたという話があって(笑)。それと同じ、「決まってるだろ、橘高メタルだ。ワンツースリーフォー!」って言われたときの強烈なショックみたいなものをリスナーに感じてもらいたかったんです。言ってること、わかります(笑)

―う~ん(笑)。チャック・ベリーのロックンロールの域にまで迫る様式美が橘高さんのギターにあるということでしょうか?

橘高:今大槻君に言われてハッとしたけど、本当にそうなんです。俺は自分の中でのヘヴィメタルの完成というのを生涯追い続けていて、定型の中でいかにより良いものを作れるかという意味では、ブルースの人と一緒なんですよね。でも、俺が筋少に入った理由は、この世になかったオリジナリティ溢れる作品を1作でも残したいという気持ちがあったからなんです。だから、「大江戸鉄炮100人隊隠密戦記」という歌詞を持ってきてもらうことで、俺のヘヴィメタルはこの世で唯一のものになるんです。この楽曲をこうして入れられたことにすごく誇りを持ってます。

―冒頭で “この物語はフィクションであり時代考証などデタラメである”と断りを入れているあたりが今っぽいなと思いました。

大槻:途中でガンマンが助けにくるじゃないですか? 最初、僕はこれを小説にしようと思っていたんです。それで調べたところ、どうも時代が合わないということに気が付いて(笑)。でもお侍と西部劇が合体した映画もあるし、その辺はいいかなと。

内田:『レッド・サン』(三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが共演した西部劇)とかね。

Rolling Stone Japan 編集部

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