反ワクチンに人種差別、エリック・クラプトンの思想とどう向き合うべきか?

Illustration by Joan Wong for Rolling Stone. Images in Illustration by Michael Ochs Archives/Getty Images; Steven Puetzer/Getty Images


クラプトンの思想とどう向き合うべきか?

こうしたこと全てがきっかけで、ファンは人々の命を危険に晒そうとしている音楽家のレガシーに苦悶する羽目になった。「解せませんね、ずっと彼はリベラルだと思っていました」と言うのは、長年クラプトンと仕事をしてきた音楽業界の某ベテラン。「彼とは何度も顔を合わせてきました。とても紳士的で、成熟していて、話しぶりも丁寧だし、落ち着いている。だからショックなんですよ。彼のオーディエンスの大半がショックを受けています。もう彼を(コンサートで)見ることはないでしょう。絶対に。ファンのことを気にかけておきながらワクチンに反対するなんてありえますか? 彼はライブ・エンターテインメント業界に携わる人間なんですよ?」

我々はクラプトンの意見と音楽をどう受け止めればいいのか? 「Layla」の狂おしいほどの情熱、『461 Ocean Boulevard』のリラックスしたグルーヴ、クリームで演奏したロバート・ジョンソン「Crossroads」の劇的な再解釈――今も語り継がれる彼の業績を、二の足を踏むことなく堪能することはできるのだろうか?

コネチカットの人気クラシックロック局WPLRで、午前の番組を担当するラジオDJのチャズ(本人の希望により仮名)は、クラプトンは「ラシュモア山の記念碑」に匹敵する人物だと言う。だが彼も、かつてのヒーローの見当はずれな発言に当惑している。「彼は音楽で世界にたくさんの幸せを届けてくれました」とチャズは言う。「もし一家団欒の夕食の席で、祖父が僕と全く意見が合わないことを言ったとしたら、僕は無視して『おじいちゃん、マッシュポテトを回して』と言うでしょう。今回も全く同じ気持ちです」

9月13日、クラプトンの全米ツアー初日。テキサス州フォートワースのディッキーズアリーナに流れ込んだ1万2000人強のなかには、まさにそうした食事の席のような思いをしている人もいた。「政治の話ですか、その手の質問には答えたくないですね」。クラプトンの意見について尋ねると、あるコンサート参加者は激昂した。この時フォートワースのあるタラント郡は、パンデミック発生以来テキサス州で2番目に多いコロナ感染者数を記録していた。州の感染者は300万人、そのうちタラント郡の感染者は30万7000人。だが会場では、マスク着用は「強く推奨」されているだけで、会場内で着用している人はほとんどいなかった。集まったクラプトンのファンは彼を支持しているか、もしくは口にしたがらなかった。

「彼は政治的スタンスを取っているわけじゃないと思います」。クラプトンのコンサートは初めてという、テキサス州グランベリー出身のデイヴィッド・ヘイナーさんはこう言った。「彼は与えられた発言力を利用して、健康と安全について意見を述べているんです。僕はまったく気になりません」(「それで具合が悪くなる方はお気の毒です」とフィンク博士。本稿執筆時点で、ツアーと感染者の関連性は報告されていない)

「エリックの発言を見たかい?と言ってきた人がいたよ」とバディ・ガイも言う。「彼のような有名人が発言すると、世間は耳をそばだてる。俺たちが間違いだと思うようなことでも、彼をずっと応援してきた他の人間は、彼が正しいと考えるかもしれん」

2週間にわたるツアーの間、クラプトンは一度も反ロックダウン楽曲を演奏しなかった。彼は「I Shot The Sheriff」「Layla」「Tears in Heaven」などの定番曲や、いくつかのブルースのカバーに徹した。観客に語り掛けることも、ワクチンや政治観について口を開くこともほとんどなかった。だが、彼はギターを手にしながら、かつてと同じように文化的市民闘争の岐路(crossroads)に立っている。

Additional reporting in Texas by Kelly Dearmore

From Rolling Stone US.

Translated by Akiko Kato

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