松本隆、シーン復帰後から2000年代までの歩みを辿る

幸魂奇魂(さきみたまくしみたま)/ 藤舎貴生

2012年3月に発売になった藤舎貴生さんのアルバム『幸魂奇魂(さきみたまくしみたま)』です。これは古事記の口語化でした。日本の成り立ちを記した最古の古典、最古の神話です。古事記の中のお話、例えばヤマタノオロチとか、因幡の白兎とか、僕らも子どもの時に絵本や日本昔ばなしで接したことがある。いくつかはとても知られているお話なのですが、全体は日本を作った神様のお話。伊邪那美命とかが出てきたりするんですね。天照大御神とか、須佐之男命とか。年配の方はどこかで聞いたような神様がたくさん出てきて、でも古事記は長い長いお話なので、その中の大国主大神のところだけを口語化している。その中には日本で最古の和歌と呼ばれている歌もあったりして、そこにちゃんとメロディがついているんですね。今日はそれをおかけしようか、こっちにしようかかなり迷ったんです。日本最古の和歌、それに藤舎さんがメロディをつけたものはどこか歌謡曲みたいにも聴けるんですけども、松本さんがこういうものを手掛けてきたんだという意外性で言うと、やっぱりこれをおかけするのが1番かなと思って。CDには15分まるごと入ってます。たぶん、こういうのを聴いたことがない方がほとんどでしょうから、中にはジョン・レノンのアルバムでオノ・ヨーコさんを飛ばして聴くようにここを飛ばして聴くみたいな方がいらっしゃってもいいかと思って、これを入れました。

この「幸魂奇魂(さきみたまくしみたま)」というのは出雲大社の祈り言葉として、今も使われているんだそうです。最後の締めくくりに“風の櫛”という言葉がありました。花が咲き草もゆるこの国を風の櫛でとかす。日本がいい国になりますようにという願いを込めての口語訳でしょうね。風の櫛というのがまさに松本隆と思ったのですが、詞を書き終えて、藤舎さんに渡した4日後に東日本大震災があった時期でもありました。はっぴいえんどの3枚目のアルバムの最後に「さよならアメリカ さよならニッポン」という曲がありました。アメリカにもニッポンにもさよならした詩人が還暦を超えて、こんなふうに日本と向かい合った。超大作アルバムがこれだと思いました。

2017年に出た最新のオリジナルアルバムが今回10月27日に発売される本のタイトルにもなっている『デラシネ』なんですね。2000年の『AURA』以来、16年振りにクミコさんと組んだアルバム。テーマが恋歌なんです。これが最後のアルバムになるかはまだ分かりませんけども、松本さんが60代後半になって、60代前半の女性歌手と組んだ恋歌のアルバムが『デラシネ』なんですね。作曲家が全員ほぼ初顔。細野さんも筒美さんも入っていませんでした。はっぴいえんどで育った世代と作り上げた恋歌のアルバムの最後の曲です。

Rolling Stone Japan 編集部

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