子役の経験、失恋と怒り、2作目のプレッシャーオリヴィア:もうひとつ私がおもしろいなと思うのは、あなたが子役だったこと。私もそうだった。曲作りの際、自分の感情を深く掘り下げるのに演技が役に立ったと思いますか? ある意味、私はそう感じました。
アラニス:どんなところで演技が感情表現の役に立った?
オリヴィア:特定の感情をうまく活用できたことですかね。11歳の時、初めて演技のレッスンで泣くシーンをやって。心が浄化されるような感じで、「これってセラピーみたい」と思ったんですよね。これって音楽にも置き換えられる気がしていて。私のアルバムには、文字通りピアノで泣きながら書いた曲もあるんです。
—お二人とも失恋をテーマにしたアルバムが大ヒットしています。失恋の話題がこれだけ多くのファンを引き付けるのはなぜでしょう?
オリヴィア:失恋はとても普遍的だからだと思う。多くの人がもっとも心を動かされる感情ですよね。私自身も、大失恋してボロボロになったときほど深い悲しみを感じたことはないから。「Drivers License」を出したのはすごくユニークな経験でした。私の人生はちょっと変わってるので、撮影セットで育ったから他のみんなのように学校に行ってないし。だから「この曲に共感してもらえるかな?」って心配でした。
「Drivers License」は私の人生の辛い時期について歌った曲で、あの曲を出した時、性的志向や性別や年齢に関係なく、大勢の人の心に響くのを目の当たりにしました。40歳の男性がやってきてこう言うんですよ、「やあ、すごく胸を打たれたよ」って。全く同じ経験をしているわけじゃないのに、「自分が高校生だったころ、初めて失恋した時のことがよみがえった」って。私にとっては魔法のようでしたね。こういう感情が普遍的だってことが分かっただけじゃなく、音楽には魔法のような力があって、特定の時間に引き戻すことができるんだって。音も、味も、においも全部よみがえる。これって音楽特有ですよね。
アラニス:私が思うに、愛や怒りや痛みといったエネルギーは世界を動かすのよ。物事を明るみにして、滞っている流れを再び動かす。悩みや不安に襲われた時――たいていこの2つは一遍にやってくるんだけど――そこからちょっと抜け出すには、ちょっぴり怒りを呼び起こすと上手くいく。私が自分の音楽で届けたいのも、こういう親密さなの。いわば人間性への招待状ね。「ヒューマニティ」(人間らしさ)という大きな流れがあるけれど、社会からは見過ごされている。だから音楽にどっぷり浸るの。音楽には醜いことも、美しいことも、輝かしいことも、恐ろしいことも、すべて受け入れる懐の深さがある。OKボタンみたいにね。
Photograph by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Olivia: Vintage suit, vintage beret from Lidow Archive. Luichiny Boots from Arlalda Vintage. Ring by EÉRAオリヴィア:ずっと2作目のプレッシャーについて考えているんですけど、あなたもそういうプレッシャーは感じましたか?
アラニス:『Jagged Little Pill』の後、行く先々で、スーパーへ買い物に行っても言われたわ、「次のアルバムはいつ? 私も男なんて大嫌い!」って。すぐには曲を書く気分になれなかった。難問に立ち向かわなくちゃいけない、というプレッシャーはたくさん感じるわ。私にとっては、今人生で起きていることをどうとらえるかが大事なの。プレッシャーも含めてね。
オリヴィア:人間関係を暴露されたり、つつき回されたり、土足で入ってこられたりして大変でしたか? 外には出したくない私生活を根掘り葉掘り聞かれたとか?
アラニス:ええ。私は誰かの人生をぶち壊してやろうと思って曲を書いているわけじゃない。そうするつもりなら、実名と住所入りにするでしょうね。誰かを痛い目に遭わせたり、あからさまに復讐してやろうと思って書いたわけじゃない。もっとも、復讐を妄想するのは最高だと思うけどね。私にとっては復讐の妄想がすべて。
あなたがどこまで使命とか意図を持っているのかわからないし、もしかしたら生きるのに精いっぱいなのかもしれないけど、私の場合はずっと表舞台に立ち続けるというサービス精神みたいなものに支えられている。好奇心旺盛なのよね。あなたが頑張る理由は何? 75歳になっても音楽を続けているとしたら、ずっと現役でいられる理由は何だと思う?
オリヴィア:私もいつもそういうことを考えてる。時々ちょっと不思議になるんですよね、なんでみんな自分が望んだことを自分に押し付けるんだろうって。
アラニス:あら、厳しいわね。
オリヴィア:アメリカ大統領になりたいと思ったら、こういう変なことになるでしょう。相当なプレッシャーと批判がかかってくる。
私にもはっきりした答えはわかりません。私が音楽をやり続けるのは、ベッドルームで曲を書くのが好きだから。「会話で説明するよりも、もっとうまく自分の気持ちを完璧に伝えられる」って思うから。
アラニス:私の場合は、曲が私の手を離れて人々に深い影響を及ぼすのを見ること。それが今も現役でいる理由ね。
オリヴィア:素敵。ツアーはどんな感じ? ちょっと気になったんです、私はまだツアーしたことがないから。いつか私もあなたのように母親になりたい。子供を連れてツアーに出るってどんな感じなんだろう。
アラニス:そうね、コロナの時代に子供3人を連れてツアーに出たいかと聞かれれば、間違いなく「まっぴらごめん」って答えるでしょうね。でも、ツアーは最高よ。私は15の時からツアーをしている。生粋の野良犬気質なの。
オリヴィア:私もハリウッド・ボウルに観に行きますね。
アラニス:嬉しい!
オリヴィア:最後にこれだけ聞いておかないと後悔しそう。この業界で育っていくうえで、何かアドバイスはありますか?
アラニス:そうねえ。もしやり直すことができるとしたら、もう何人か周りに友達を作っておきたかったわ。もう少し心の支えというか、気持ちをぶちまけて、一緒に消化してくれる人がいればよかった。日記にしたためるのもいいけれど、もし時間を戻せるなら、情が厚くて自分を無条件で愛してくれて、大丈夫かと気にかけてくれる人を魔法で呼び出したいわね。そういう人はいる?
オリヴィア:うん、いると思います。
アラニス:そういう人が必ず側にいるようにして。私も助け舟を送るわ。感受性が高い人向けのツアー用サバイバルキットをね。
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Rolling Stone US.Photographed by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Produced by Walaa Elsiddig and Jenny Martin. Morissette: Styled by Sara Paulsen for Art Dept. Hair styled by Marcus Francis for A-Frame Agency. Makeup by Rachel Goodwin for A-Frame Agency. Jacket by Nanushka. Anine Bing T-shirt and Mother pants from Shopbop. Earrings by Andy Lif. Rodrigo: Styled by Chloe + Chenelle for A-Frame Agency. Hair styled by Clayton Hawkins for A-Frame Agency. Makeup by Molly Greenwald for A-Frame Agency. Sweater by AREA. Pants by Marine Serre.