レディオヘッド『Kid A Mnesia』評「冷酷な時代に燃えさかる創造性の炎」

冷酷な時代に燃えさかる創造性の炎

『Kid A』と『Amnesiac』は、Napster時代に初めて世間を賑わせたロックアルバムだった。それゆえ世界中のファンはすでに、ライブのMP3音源でほとんどの楽曲を耳にしていた。2000年10月に『Kid A』がリリースされた時、どういうわけかレディオヘッドは、イチ押しの新曲を出し惜しみしているようにみえた。なぜ「Knives Out」がないんだ? 「You and Whose Army?」も? 「Egyptian Song」(のちの「Pyramid Song」)もないぞ? 2001年夏に『Amnesiac』がリリースされると議論はさらに白熱した。『Amnesiac』はずっとハードで、よりパンクで、ジョニー・グリーンウッドとエド・オブライエンのギターが前面に押し出されていた。代表曲のひとつ「I Might Be Wrong」はオールマン・ブラザーズを乗っ取り、「Knives Out」はザ・スミスの楽曲をひとつ残らずミキサーにかけたかのようだった。『Kid A』が抽象的だった一方で、『Amnesiac』は従来のレディオヘッドらしいロックンロールの真髄を、しぶしぶながらも披露していた。



今こそ『Amnesiac』再考の時がきた。昨年ローリングストーン誌が「歴代最高のベストアルバム500選」の投票を行った際、『Kid A』は20位圏内にランクインしたが、「Amnesiac」は500位までに入らなかった(他に『OK Computer』『The Bends』『In Rainbow』がランクイン)。皮肉にも、『Kid A』のひとつ上にランクインしたケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』は、『Amnesiac』に収録された「Pyramid Song」をサンプリングしている。双子の片割れは単に『Kid A』の物語の添え物に追いやられてしまった――さながら“花嫁の付添人A”のように。だが、このアルバムもまた金字塔的作品だ。

あの当時、『Kid A Mnesia』プロジェクトは商業的災難を招くだろうと思われていた。だが、いずれのアルバムも商業的には特大ヒット――ポップミュージック並みのヒットと言っても過言ではない。2000年10月、『Kid A』は全米アルバムチャートで初登場1位に躍り出て、世紀末のディストピア的な終末にふさわしい警鐘を鳴らすサウンドトラックとなった。ちょうどこの年、最高裁判所はフロリダ州の投票集計を差し止め、選挙の敗者を大統領の座に据えた。「まさかが現実になる」という災難三昧の新世紀の前触れだったのだ。『Kid A Mnesia』はレディオヘッド史上もっとも大胆かつ勇敢な作品を象徴しているだけではない。もっとも冷酷な時代のさなかにも、燃えさかる創造性の炎を絶やすまいとする意思を称えているのだ。

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From Rolling Stone US.




レディオヘッド
『Kid A Mnesia』
2021年11月5日(金)世界同時発売

[収録内容]
●Disc 1 - Kid A
●Disc 2 - Amnesiac
●Disc 3 - Kid Amnesiae + b-sides

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12083

Translated by Akiko Kato

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