レディオヘッド『Kid A Mnesia』評「冷酷な時代に燃えさかる創造性の炎」

レディオヘッド(Photo by Tom Sheehan)

レディオヘッドの歴史的名作『Kid A』と『Amnesiac』が、ひとつの3枚組作品『Kid A Mnesia』として再発された。2000年代の幕開けを飾った両作の革新性、今回のリイシューにおける聞きどころを掘り下げた、米ローリングストーン誌のレビューをお届けする。

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時代の波を越えられない見解がある。人類は何世紀もの間、太陽が地球の周りを回っているのだと信じた。その時代は終わった。トマトを食べると死に至り、ヒルは最上の治療方法であり、リー・ハーヴェイ・オズワルドは単独犯だと思われていた。70年代に発表されたコカインに関する書物にはどれも「非常用性」と言う言葉が書かれていた。2001年夏、レディオヘッドが『Amnesiac』をリリースした時も、(アメリカでは)大勢のファンが『Kid A』をしのぐ傑作だと考えた。前作よりハードだし、楽曲のキレもいいし、感情の幅も広い。究極のワンツーパンチだ。レディオヘッドは1回の収録でスペースロックの傑作を2作も生み出し、秀逸な作品を2作目に取っておいたのだ、と。

月日が経ち、『Kid A』の伝説は増大し続けた。そして、レディオヘッドを代表する最高傑作となった。だが熱烈なファンにとっては残念なことに、『Amnesiac』は不思議なほど過小評価され、有名になった片割れの陰に隠れてしまった。これらの音源を再検証したのが、2枚のアルバムをひとつの音楽作品を成す双子とみなした豪華セット『Kid A Mnesia』だ。2枚のオリジナル・アルバムと、アウトテイクやB面曲、未発表の実験的な音源などを集めた『Kid Amnesiae』のCD3枚組が綴るのは、ひとつの尋常ならぬ物語。非凡な才能を持つ面々が熱狂してスタジオを駆け回り、あらゆることに挑戦しようとしている様子が伺える。その結果2枚の名盤が生まれ、秀逸な楽曲が山のように残された。

事の始まりは単純だった。大成功を収めたロックスターがまっさらな状態からやり直そうと決意し、なじみのギターから使い方もよくわからないシンセサイザーに持ち替えた。『Kid Amnesiae』からもわかる通り、彼らはアイデアと「このボタンを押すとどうなるだろう?」という精神に満ちあふれていた。そして典型的なレディオヘッド・スタイルでお互いをぎりぎりまで追い込み、あらゆる細部をとことんまで突き詰めた。トム・ヨークもローリングストーン誌にこう打ち明けている。「俺はみんなの人生を台無しにしかけた」




新たな音源の聴きどころのひとつ「If You Say the Word」は、お蔵入りになっていた初公開の秀作だ(ジョニー・グリーンウッドは「品が良すぎる」といって却下した)。と同時に、不気味なシンセの上に変化を加えてオーディエンスを裏切ろうと試案するトム・ヨークの姿は、絶頂期のレディオヘッドを彷彿とさせる。カルトな人気を誇る「Follow Me Around」は、スタジオ作品として正式にリリースされたことはないが、ライブでは何度か演奏された曲だ。『OK Computer』レコーディング時代からの流れを汲んだ、偏執的なアコースティックへの決別。この中でトム・ヨークは“おととい来やがれ”(See you on the way back down)と嘲笑する。これほど素晴らしい楽曲をみすみす見送るなんて、他のバンドではおよそありえない。「Fast Track」や「Fog」など、知られざるB面ソングのリメイクも収録されている。「Motion Picture Soundtrack」のハープのグリッサンドしかり、「How To Disappear Completely」のストリングスしかり、『Kid Amnesiae』にはオリジナル・アルバムのエッセンスがこだましている――――まるで脳裏から離れない悪夢の残像のように。

「Pulk/Pull (True Love Waits Version)」は、長年注目されてきた楽曲(もっとも愛されてきた曲のひとつでもある)の完全エレクトロ・バージョン。スタジオアルバムには長らく収録されてこなかったが、2016年の『A Moon Shaped Pool』で日の目を見た。これこそあの当時にリリースされてしかるべきだった。「Everything In Its Right Place」さながらに、不吉なシンセとフェンダーローズのピアノがうなる。「The Morning Bell」は、当時の音源の中では唯一両方のアルバムに収録された作品。3度目の正直となる『Kid Amnesiae』のバージョンは、愁いを帯びた祭りのオルガンが響くインストゥルメンタルだ。

Translated by Akiko Kato

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