岡村靖幸の名盤『家庭教師』、当時のプロモーターが背景を語る



田家:B面の2曲目「祈りの季節」です。爽やかな青春の後に混沌とした祈りのような曲が入っておりますが。

福田:社会派ソングというか、ある意味。そんな印象があるかと。今回、『家庭教師』に関して僕なりにいろいろ調べていったところ、この曲って唯一仮タイトルが残っていた曲なんです。トラックダウンマスターというか、トラックダウンが終わった段階のテープにはまだ「眠れぬ夜」。歌詞にそういうフレーズもたしかあったと思うんですけど、というのが残っていて。祈りの季節という言葉は全く入ってなくて、ギリギリまで仮タイトルだったのか、それでいくつもりだったのかという証拠、文字が残っていて。「ああ、そうなんだあ」という新しい発見をつい数ヶ月前にしたところです。

田家:〈眠れない夜はきっと神様が君にメッセージしている〉”という歌詞もありますもんね。〈性生活は満足そうだが 日本は子沢山の家族の 減少による高齢化社会なの?〉とか、歌の歌詞という感じじゃないですよね。

福田:はい。捉え方によっては未来への警鐘というふうにとれるじゃないですか。そういうことを岡村靖幸というアーティストがこの時点で想像していたのかと思うと、なんかやっぱり僕らとステージ違うなと思ったりしますね。

田家:さっきの「家庭教師」の中に月に30万送ってもらっている娘、パパかわいそうって歌っていますもんね。つまり、娘に対してではなくて、親父さんのことをかわいそうと思っている。そういう当時の青春に対して、ある種のアイロニックと言いますか。シニカルな一面ではありますね。

福田:90年と言うと、まだバブルの時代なのでキラキラ派手みたいな時代と、裏返す意味で何かが起こるというか、もしかしたら未来はキラキラが続かなくて、何かマイナスのことが起こるかもしれないみたいなところを彼なりに感じていたとすると、やっぱりアーティスト・岡村靖幸というのを外して、人間・岡村靖幸としてすごい感性の持ち主なんだなと思いますね。

田家:さっきの「あの娘僕がロングシュート決めたらどんな顔するだろう」の中にも〈革命チックなダンキンシュート〉っていうのがあって、「革命」という言葉が多いですよね。これは来週からの話になるのですが、最初の頃の青春はそんなふうに世の中に対して、これでいいのだろうか? みたいな感じではない始まり方だったでしょ。

福田:ないですね。まさに素直な青春というキーワードを切り取ったような歌が多かったと思うんですけど。そこにつけられるというか、さらに重なるというか、それとはちょっと裏腹になる部分の青春が見え隠れする歌がありますよね。

田家:彼はそうやって世の中を見ていたんだなと思いながら、このB面の2曲目をお聴きいただけたらと思うのですが、「祈りの季節」。

Rolling Stone Japan 編集部

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