アレサ・フランクリン伝記映画『リスペクト』事実検証

映画『リスペクト』のジェニファー・ハドソンとメアリー・J・ブライジ (Photo by Quantrell D. Colbert/MGM Pictures)

映画『リスペクト』はどこまで真実に忠実か? ローリングストーン誌がアレサ・フランクリンの伝記映画を事実検証。第1子の父親は?ソウルの女王と名付けたのは? など、8つのエピソードの真偽が明らかになった。

伝記映画はウィキペディアの記事ではない。人生だって、すっきりとした筋立ての物語ではない。アレサ・フランクリンの生涯ほどドラマチックなものでも例外ではないのだ。脚本家のトレイシー・スコット・ウィルソンとリーズル・トミー監督は、11月5日公開の映画『リスペクト』を通してソウルの女王が歩んだ波瀾万丈の20年間をたった2時間半の映画に見事にまとめ上げた。素晴らしいリサーチとフランクリン役を演じたジェニファー・ハドソンの魅惑的なパフォーマンスのおかげで、『リスペクト』はフランクリンの人生のもっとも重要な数々の転機を描くことで観客を楽しませてくれる。彼女がマディソン・スクエア・ガーデンで「リスペクト」を歌い上げるとき、最前列にいるのはあなただ。フランクリン史上最多セールスを記録したライブアルバム『史上の愛(アメイジング・グレイス)』(1972)のレコーディング準備をしているとき、バックステージにいるのもあなただ。彼女のキャリアのハイライトはすべて盛り込まれている……だが当然ながら、現実から離れてしまった点がいくつかあるのも事実だ。時系列が歪められ、登場人物がカットされ、‘リスペクト’とともに嘘が語られていることも……ローリングストーン誌が映画の真偽を検証していく。【注:文中にネタバレを想起させる箇所が登場します】

1.フランクリンの第1子の父親の正体は、いまだに謎に包まれている

映画『リスペクト』は、10歳のフランクリン(スカイ・ダコタ・ターナー)がベッドで寝ているところを起こされ、父で牧師のC・Lことクラレンス・ラボーン・フランクリンが主催するホームパーティーで歌うようにと下の階に連れていかれるシーンで幕を開ける。「百万ドルの声を持つ男」と呼ばれたフランクリン師は、熱狂的な説教によってミシガン州デトロイトで名を馳せていた。デューク・エリントン、エラ・フィッツジェラルド、アート・テイタム、サム・クックなどの招待客たちがタバコを吸い、罵り合い、文字通り大騒ぎするなか、少女は彼らの見せ物として音楽を披露する。このシーンはフランクリンの成熟した才能を確立すると同時に、彼女が育った大人たちの世界を垣間見せてくれる(放蕩と縁が深いレイ・チャールズは、説教師として各地の教会を回るフランクリン師の一行を「セックス・サーカス」と表現した)。その後、別のパーティーでフランクリンは部屋に入ってきた成人男性に起こされる。男は、彼女の「ボーイフレンド」になりたいと申し出る。一連のフラッシュバックとともに、フランクリンが犯され、その結果妊娠することがほのめかされる。

実際のところ、フランクリンは12歳で第1子を産んでいる。クラレンスと名付けられた子どもの父親が誰かは、いまだにわかっていない。父親は家族の友人の成人男性であるという憶測が長年飛び交ってきたが、フランクリンの家族はこれを何度も否定している。フランクリン本人も公の場で息子の父親の正体を明かしたことはないが、1999年の回顧録『From These Roots』のなかでフランクリンは、地元のスケート場で出会った少年だと明かしている(フランクリンはただ‘ロミオ’と言及している)。『From These Roots』の共同執筆者であり、2014年に非公式のフランクリンの伝記『アレサ・フランクリン リスペクト』(2016年 発行:シンコーミュージックエンタテイメント)を上梓したジャーナリストのデイヴィッド・リッツは、クラレンスの父親はドナルドというフランクリンのクラスメイトだと記している。フランクリンの死後、手書きと言われる遺書が発見されたことによってこうした事情はさらにうやむやになってしまう。遺書には、クラレンスの父としてエドワード・ジョーダン・シニアという別の地元の少年の名前が記載されていたのだ。この人物は、フランクリンが15歳のときに生まれた第2子エドワードの父親である。だが、この遺書の信ぴょう性はいまだに議論されている。


『リスペクト』のタイタス・バージェスとジェニファー・ハドソン(Photo by Quantrell D. Colbert/MGM Pictures)

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Translated by Shoko Natori

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