ディアンジェロと当事者が明かす、『Voodoo』完成までの物語

「知識」は戦争のインスピレーション

その2日後の午後、ニューオリンズ、超ヒップなWホテル、ルームナンバー1725。これはクエストラヴの部屋だ。フィラデルフィアのヒップホップ・バンド、ザ・ルーツのドラマーにして、制作に5年を要したディアンジェロの2作目のアルバム『Voodoo』の副操縦士である。大柄でくっつきたくなるような、カリスマ性のある、もっこりしたアフロのクエストラヴは原寸大の『サウス・パーク』のシェフだ。彼はベッドのへりに腰掛け、前屈みになっている。彼の盟友Dは、その反対側のへりにいて、Tonight Showの黒のTシャツ、黒いスウェットにナイキの黒のエアフライトポジット、頭には黒いドゥーラグといういでたち。二人が見ているのは、モノクロ映像のヴィデオテープで、ジェームス・ブラウンの1964年のパフォーマンスだ。これは二人が「お宝」と呼んでいるもので、ヨーダ的な人物の知識を与えてくれる。その大半はショウのヴィデオテープだが、アルバムや本も含まれている。ヨーダ的な人物とは二人が崇める匠のこと。例えば、ジェームス、プリンス、スティーヴィー・ワンダー、ジョージ・クリントン、マーヴィン・ゲイ、フェラ・クティ、アル・グリーン、ジョニ・ミッチェル、スライ、ジミ。ある日、クエストラヴがDに訊ねた。「もしもジョージ・クリントンのテープを見ていなかったら、どんな人生になっていたと思う?」。Dは答える。「まるっきり違ってたよ」

ヨーダ的な人物にまつわる知識を追究するなかで、二人は何百ものお宝を手に入れた。「俺たちにはブートレグコンサート映像のコネがあった、ヤク中にドラッグディーラーのコネがあるように」とクエストラヴ。「『Voodoo』の制作期間は、少なくとも13人はいて、俺たちにブツを供給してくれた」。「連中は究極のコレクターだ」と言うのは、Dのマネージャー、ドミニク・トゥルニエだ。「彼らに会うといつでも最低30本はテープを持ってた。『ヒマしてるんだけど、俺がまだ見てない昔の『ソウル・トレイン』ってなにかある?」なんて俺が言おうものなら、連中はこう言うのさ。「ああ、マイケル・ジャクソンが転けるのでも見るかい?」。二人はお宝を研究する、マイク・タイソンが伝説のファイターのテープで研究したように。天賦の才にひきつけられ、知識に飢えている。



知識は、Dが考えるモダンミュージックという戦争のインスピレーションであり、弾薬である。その戦争に、音楽の未来は隠されているのだ。『Voodoo』は野心的なレコードで、それこそ、ブラックミュージックを商業的な思惑から引き剥がし、自由にミューズを求めさせてあげようと努めている。これは緩くて、長くて、耳に引っ掛かるグルーヴと、フィンガースナップ、ファルセットによるセレナーデ、ぶっきらぼうなつぶやきと、水の底を這うようなベースでできたアルバムだ。ヒップホップ時代のソウルミュージックである。つまり、スワッグを誇示(独自のスタイルを前面に押し出)しつつも優しさを湛えている。シングル「Untitled (How Does It Feel)」のMVで、Dは裸で現れ、カメラは上から下へと彼を舐めるように動く。このヴィデオは一般家庭と同様、黒人男性に関する博物館の展示でも、成人指定作品の棚に置かれるだろう。そして、この曲自体について驚くほど視覚的に例示している。例えば、それは生々しさ、親密さ、裸、濃厚なブラックだ。例えば、スライ・ストーンの『There’s a Riot Goin’ On』、あるいはマーヴィン・ゲイの『Here, My Dear』のように、『Voodoo』は意図的に難解な音楽だ。メロディに悩まされることはそうなく、そういうことがある場合は、昔のプリンスのレコードから直接やってきたようなものになっている。また彼自身が認めているように、悪戦苦闘するマルチ奏者にとって複雑でやりがいのある仕事にもなっている。自分の声というものを見出だすべくプリンス、ジミ・ヘンドリックス、Pファンクなどを集中的に研究していて、この日の午後はジェームスとプリンスだった。

Translated by Masaaki Kobayashi

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