ブルーノ・マーズとA・パークが語るシルク・ソニックの絆、ソウルへの愛と執念

シルク・ソニック(Photo by Florent Déchard for Rolling Stone)


コロナ禍と過去への向き合い方
エンターテイナーとしての矜持

ツアーが終わり、人生は前に進んだ。そして、こうしたセッションは今年の2月まで中断された。パンデミックが合衆国を襲う直前まで、ブルーノはファイルを聞き返していた。「ピンときたことがあったから、アンディに電話して伝えた。『スタジオに来いよ』。彼はこう答えた。『俺は酔ってるぞ!』」「自分の誕生日だったから」とアンダーソンは説明する。「でも俺は言う通りにした」。「姿を現すと、彼は興奮していた」とブルーノが続ける。「俺たちは曲を書き始めた。この場所で。一進一退しながら」。そこには「競争心と仲間意識 」があった、と彼は説明する。「彼が一発かましたら、『おお、すげえ。俺はさらに上を目指すぜ』みたいな」

二人とも笑う。「あのセッションはすっごく楽しかった」とブルーノ。「あれが"What are you doing tomorrow?”という歌詞に繋がった」

シルク・ソニックは、隔離状況下での情熱的なプロジェクトとなった。「俺たちもやれたかどうかわからない、もしもパンデミックでなかったら」とアンダーソン。「本当に多くの人たちにとって悲劇になってしまったけど、ブルーノはツアーに出ていたかもしれないし、俺も同じだ。でも、俺たちにはここにいなければならなかった(二人がほのめかしているのはスタジオによる“厳格な”安全のための手順のことで、二人とも感染しなかったと話してくれた)」。サウンドを厳しく分析すべく、二人は、アンダーソンが呼ぶところの「ファウンデーション、つまり、60年代、70年代、オールドスクール」に目を向けた。ブルーノはこう話してくれた。「俺には何年の曲かわからない。チャートは見ていないし。俺たちは毎晩ここに来て、一杯やって、好きな曲をかけた」

二人に影響を与え、基準となった存在について具体名を挙げてもらう。すると、アンダーソンがたくしあげたTシャツの下から現れたのは、かなり精緻なタトゥーで、胸じゅうに広がっている。描かれているのは、アレサ・フランクリン、ジェームス・ブラウン、マイルス・デイヴィス、スティーヴィー・ワンダーにプリンス。「これはアヴェンジャーズだ」と彼は言う。「これを入れたのは隔離期間中、めちゃくちゃ退屈だったから」。「これってジェームス・ブラウン?」ブルーノは、アンダーソンの胸を指差して訊ねると、眉をひそめる。「そのタトゥー、スティーヴィー・ワンダーが入れてたはずだよ」



Photo by Florent Déchard for Rolling Stone, top by Anderson x Vans. hat by Kangol.

年が進むあいだに、クラシック・ソウルへの愛情ゆえに二人は絆を深めた。自分なりに愛を育んできたディープカット(隠れた名曲)を互いに聞かせあったのだ。アンダーソンは、ブルーノが知らなかったドラムの部分についてしゃべったりした。「さらにパーカッションに留まらず」とブルーノ。「アンディに備わっていたのは天与の声と、そこに宿る天然の生々しさとファンク。ソングライターとしては、聞こえてくるその声は楽器のようだし、様々なことを想像してしまう。『もしも自分にこんなスーパーパワーがあったら、自分が作る曲もああいう感じになるのに』」

スタジオの外では、世界は大きく揺れていた。アンダーソンは、ブルーノに比べると明確にポリティカルなアーティストで、ブラック・ライヴズ・マターの抵抗運動のさなか、あの瞬間の熱狂的で不安定なエネルギーを放出する「Lockdown」という楽曲をリリースした。政治と痛みは、当然、ソウルの歴史とは切っても切れない。そこで、シルク・ソニックとして、警察による殺害もしくはパンデミックについて何か言いたいという誘惑にかられなかったか訊いてみた。 「俺がここに着くと、ブルーノがこう言った。『なあ、アンディ。きみはたくさんのことをしてきたし、たくさんの曲を作ってきたのはわかってる。どれもすごくかっこいい。でも、俺たちのこの作品は俺の流儀でやっていく。俺とがっちり手を組み、俺を信頼してほしい。きみには毎晩ベストを尽くしてほしい。俺たちが作る音楽で女性たちが気持ちよくなり、みんなに踊ってほしい、それでいいんだ。みんなを悲しませたくはない」

ブルーノが言うには「いい曲は人々を一つにまとめあげる。“みんなで一つになろう”という歌詞をわざわざ歌わなくてもいい。実際にそうするのが厳しいこともある。“みんな手を挙げろ”と言わなくてもいい。心に訴えかけたら、自然とそうなるから。それが、このアルバム全体での俺たちの考え方になっている。もしもそれが俺たちを気持ちよくし、俺たちの心に響けば、それが広く伝わり、他の人々の気持ちをよくする。それこそが、エンターテイナーとしての俺たちの仕事だ」



ブルーノとアンダーソンに近しい人にCOVID-19で亡くなった者はいない。ただ、二人とも深い哀しみと不安に刻まれた生活を送ったことがある。二人ともホームレスの時期があったし、若くして親を亡くしている。アンダーソンの父親は獄中で亡くなった。彼の母親に暴力を振るったのだった。そして、ブルーノの母親は、2013年に予期せぬ死に襲われた。彼はツアーの準備中で、慌てて地元ハワイの彼女のもとに駆けつけたが、顔を見る前に亡くなってしまった。

「俺たちは二人とも気持ちよくなれる音楽を作っている」とアンダーソンは説明する。「そして、それは俺たちが痛みや悲劇を経験してきたからだと思う」。「すべてが痛みと生き残ることから始まっている」とブルーノが同意する。「絶対に逆戻りしたくない。前進あるのみ。状況が悪くなることがわかっていても」。シルク・ソニックというプロジェクトは、とアンダーソンが言う。「そうしたことについての俺たちなりの対処法になっている。だからこそ、俺たちも大きな力を注いでいる。俺たちにはわかっている。それは俺たちにとって生か死か、生や死とはなんなのか。貧乏とは、親を亡くすとは、自分を支えてくれた、あるいは、依存症と戦った親を持つとはどういうことなのか、俺たちは知っている。自分たちがなにに直面しているのかわかっている。俺たちが経験したすべてがここにある」

ブルーノが教えてくれた話がある。「俺たちの曲で、扱っている題材に関して、歌詞が『かなり重い』内容のものがあった」と彼は言う。「俺と彼でかなり力を入れてハーモニーを作ったり、歌ったりしたんだけど、その時に話したことを覚えている。『なあ、この曲をアルバムに入れたいのかどうかわからないよ』。俺たちが生み出しているのは、感覚だし、感情だ。だから、これは寝かせておこう。セッション後、アンディは帰宅し、俺はレコードをかけていた。この曲になったところで、ひとりごちた。『アンディのところに寄っていかないと』。クルマを走らせて、向こうに着くと、彼に伝えた。『外に出てこいよ』。彼がクルマに乗ると、俺はプレイボタンを押した。すると、彼はすぐさまこう言う。『そ、い、つ、は、やめとけ(Turn. That. Shit. Off)』」。その夜、この曲はゴミ箱行きとなった。「何週間もかけて取り組んだ曲だけど、スタジオの壁の外で聞いてみたら、そこから先は早かった」とブルーノ。「こんな気分は味わいたくない!  なぜ俺をこんな気分にさせるんだ?」

Translated by Masaaki Kobayashi

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