ブルーノ・マーズとA・パークが語るシルク・ソニックの絆、ソウルへの愛と執念

シルク・ソニックの制作風景
狂気すれすれのスタジオワーク

ラムリータスを飲み干したら、難問解決の時間だ。「まだ完全にできあがっていない曲がある。洗車の間にかけてみないと」とブルーノ。「ただ、大きな問題がある。サビに入る前のところが、いかにもパンチインした(パフォーマンスをあとから縫い合わせた)みたいになっているので、そこを基本的に直したいと思っている。そこはロボットっぽい感じで、そのすぐあとで俺が歌い出すんだけど、ドラムとベースとピアノをがっちり固めすぎたせいで浮遊感がない」

スタジオ内に入る。大きなオープンスペースになっていて、敷かれたラグの上に配置された楽器で雑然としている。そのなかには、Ludwigのドラムのヴィンテージ物で、REMOアンバサダーのヘッドに、シルク・ソニックのロゴ入りのキック(「練習用のキットだよ」とブルーノが指摘する)。ジョヴァンニ・イダルゴのコンガ。Hohner Clavinet D-6のキーボード。Danelectroのシタール。ブルーノ曰く、どの曲にも「ちょっとだけキャンディ」を加えたというTrophy Musicの小型のグロッケンシュピールが含まれていた。奥の壁にかかった大きなポスターには、キノコ雲(mushroom cloud)が描かれ、その上には「世界征服作戦」と言葉がある。「ラジオで俺たちの曲がかかったら、頭のなかで、あの音が聞こえる」とブルーノ。「あれは頭の中を整理するためのムードボードさ」アンダーソンはこう付け足す。「SoundCloudじゃないからな!」

二人はコントロールルームに入る。そこでは、エンジニアのチャールズ・モニーズが、72チャンネルのSolid State Logicのミキシングボードと向き合っている。彼が着けているスチールとゴールドを組み合わせたロレックスのサブマリーナーは、『24k Magic』を仕上げてくれた感謝のしるしとして、ブルーノが買ってくれたものだ。ここのほうがブルーノの飾りつけたポスターの数が多い。テーマは80年代ですべて統一されている。「I Wanna Dance With Somebody」の頃のホイットニー・ヒューストン、『Diamonds and Pearls』の頃のプリンス、『キャプテンEO』、『ナイトライダー』のK.I.T.T. 。チャールズの隣に座っているのは、プロデューサー/ソングライター/マルチ楽器奏者のダーネスト"Dマイル"エミール、アンダーソンとブルーノの共作者の核となるひとりだ。シルク・ソニックのユニヴァースには、まだ他の人たちもいる。このデュオに名前をつけ、プロジェクトの精神的なゴッドファーザーと見なされているブーツィ・コリンズ。進捗状況に応じて、耳を傾け、意見をフィードバックしてくれたドクター・ドレー。ドラムで1曲参加してくれたダップ・キングスのホーマー・スタインワイス。


Photo by Florent Déchard for Rolling Stone, top and sunglasses by Ricky Regal. pants by Gucci.

チャールズがかけた曲のほんの一部がブルーノを悩ませる。その曲はフィリーソウルへの華やかなオマージュで、 手痛い失恋のあとしっかり生きていこうという劇的な歌詞で、ストリング・セクションとサンプリングした暴風雨の音が加わる。「ヴォーカルをミュートしたら、どうなるか聴いてみよう」ブルーノはチャールズに言う。

「ベースをレイドバックさせたほうがよさそうだな、ほんの少しだけひっこめて」Dマイルはそう言うと、耳を傾ける。「まだ出すぎてるかも」  

ブルーノはチャールズに各楽器の音を分離するよう指示する。耳障りな演奏をつかまえて、まずい箇所を直すのだ。「ギターの弦を張りすぎてない?」と彼が訊く。「ああ、チャック(チャールズ・モニーズ)、リズム・ギターのソロをかけて」彼は耳を傾ける。「次はさっきのベースをかけて……次はピアノを……次はドラムを……わかった、アンディだ!」

「スネアのアクセントかも」とDマイル。「自分のほうでピアノとベースはもとに戻しておく。ギターに問題はないと思うけど」

数分後、ドラムが希望通りに入ってないことに彼らは気づいた。「たぶんゴーストノートのせいだ。バックビートの合間に俺がやらかしてる、強く叩きすぎた」とアンダーソンが申し出る。

「それって演りなおしたやつ?」ブルーノは彼に訊く。

「ああ、おそらく」とアンダーソンは言うなり、立ち上がり、ドラムキットのほうに歩いて行き、その楽節を改めて叩く。ドラムを覚えたのは「ゴスペルチャーチだった」と彼は話してくれた。「『意のままに操れる』のは基本。 そのうえで重要になるのは、感覚、グルーヴ、慌てないこと、スローにしないこと。 まさにそれに尽きる。ドラムに歌ってほしいだろ」

20分にわたり、アンダーソンは曲の一部の9秒間を繰り返し何度も何度も演奏し、ブルーノとDマイルからの細かな指摘を、ひっきりなしにうまく捌いてゆく。「今の音はパンチみたいだ。やりなおし」とブルーノが言う。このレコーディング中には、ほんの微かな音の違いを判別することができたけれど、それはそこで終わりだ。どうやらブルーノは自分の望むものをついに手に入れたようだ。「よし、今のは最高だ。でも、最後の音が抜けてないか」。彼は再び耳を傾ける。「ああ、ごめん、入ってた。俺がテンパってたよ。これでよし。うまくいった!」

ブルーノはビートを待ち、額に皺を寄せたかと思うと、Dマイルのほうを向く。「ピアノはどうだ?」

10分ほどのあいだに、ピアノが何度も弾きなおされると、例の9秒の箇所でようやくみんなに満足した表情があらわれた。ブルーノに訊ねてみた。ここ何年間、多くのスマッシュヒットをキャリアに残してきた彼にも、いまだにプレッシャーを感じることがあるのか。あるからこそ、ほんの少しの手直しのために、あそこまで熱心に仕事に打ち込んでいるのか、と。「プレッシャーはいつでもある」と彼は言う。「自分の内側からのプレッシャーがね。俺にとってそれは世間の認識とさえ違う。楽しくなくなったら、もうそれ以上はやりたくない。興奮させられなくなったら」。アンダーソンとの仕事について彼はこう言う。「『おお、相棒とガレージにいるぜ』みたいな。そこに喜びを見いだしている。そして、まず何よりも、音楽に夢中だ」

来る日も来る日もスタジオで過ごしているうち、音にかなり敏感になるのも良し悪しだ。ブルーノは、その事実を認める。狂気にも似た何ものかと付き合う時もある。「同じ曲を何回聴けばいいんだ?  『アンディ、ハイハットがヘンじゃない?』と何回言えばいいんだ? そこからさらに深みにはまると、こんなふうに言うところまで行ってしまう。『曲がクソなのか。俺たちがクソなのか。曲はもうできていたのでは』と」

「それはドミノ効果だ」とアンダーソン。

「ひとつのちょっとしたことが、悪循環を引き起こす」とブルーノは続ける。「そこで、それを振るい払うために、こう言うんだ。『ドラムキットに向かって』」彼は笑みを浮かべる。「それから、そいつについて考えよう」

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From Rolling Stone US.




ブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク&シルク・ソニック
『An Evening With Silk Sonic』
2021年11月12日リリース
国内盤CD ¥2,200(税込)
視聴・購入:https://SilkSonicJP.lnk.to/AEWSSMe

アルバムのイラストを用いたTシャツも販売中
グッズ・ページ:https://store.wmg.jp/collections/brunomars/products/1097

Translated by Masaaki Kobayashi

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