Spotifyが描くエンタメの未来、音楽と音声コンテンツの可能性 日本法人新代表が語る

5周年を迎えたSpotify日本法人であるスポティファイジャパン株式会社の代表取締役に就任したトニー・エリソン氏(Photo by Mitsuru Nishimura)

日本でサービスを開始してから5周年を迎えたSpotify。その日本法人であるスポティファイジャパン株式会社の新たな代表取締役に、トニー・エリソン氏が就任した。MTVや任天堂、YouTubeを経て、前職のディズニーでは「Disney+」の日本ローンチなどにも携わった経験を持つトニー氏へのインタビューが実現。Spotifyで目指すヴィジョンについて、音楽や音声コンテンツの持つ可能性について、語ってもらった。

―まずはSpotifyにジョインしての抱負について聞かせてください。


トニー:おかげさまで日本でローンチして5年経ち、ゼロからここまで来ることができましたが、まだまだ日本国内においても、世界でも伸びる余地があると思っています。Spotifyを事業として大きくしていくということだけでなく、Spotifyのミッションである「クリエイターとファンの接点を増やしていく」というのがポイントだと思います。

―Spotifyが日本でのサービスを開始してからの5年間をどう捉えてらっしゃいますか?

トニー:僕自身は8カ月前に入社したばかりですが、サービス開始当初から必ずしも順風満帆であったわけではないと聞いています。特に邦楽のカタログがなかなか揃わない中、あるもので最良のサービスを提供していくしかない。また、日本のアーティストや業界関係者にSpotifyやストリーミングが提供できる価値について理解してもらわないといけない。そして成功例を作り、勢いをつけないといけない。そういう課題に向き合う日々だったと思います。そんな中で、弊社が始めた「RADAR:Early Noise」(*1)の企画など、一つ一つを手応えのある成果を積み重ね、少しずつ業界の理解や信頼を得ながら歩んできた。そうして国内アーティストのカタログも充実してきたことでお客さんもついてくる。そんな5年だったと思います。


(*1)2017年に日本でスタートした「Early Noise」は、Spotifyが注目する次世代アーティストを毎年年初に発表し、1年を通じて継続的に紹介する新人サポートプログラム。過去にはあいみょん、Official髭男dismをいち早く選出してブレイクに繋げるなど業界内外で注目を集めている。5年目となる2021年には、4億人に迫る世界のSpotifyユーザーに対しても積極的に紹介する目的で2020年にスタートしたグローバルプログラム「RADAR」との連携を強化し、名称を「RADAR:Early Noise 2021」と改めた。



Tony Elison(トニー・エリソン)
スポティファイジャパン代表取締役として、メディア、コンテンツ、テクノロジー業界のグローバルブランドにおける日本、米国、アジア太平洋地域での25年以上にわたる経験を生かし、日本における同社の戦略策定や事業運営などビジネス全般を統括。MTV、米国・任天堂、Google/YouTubeを経て、前職となるウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社では、メディア担当副社長兼ゼネラルマネージャーとして、定額制ビデオ・オン・デマンドサービス「Disney+」の立ち上げなど、モバイル、テレビ、メディア配信、家庭向けなどの各カテゴリーで事業を推進をした。米国生まれ。京都とインディアナ州で育ち、マサチューセッツ州ウィリアムズカレッジにて政治学とアジア研究の学士号を取得。日本語と英語に堪能で、オランダ語とドイツ語にも精通。



―トニーさんはこれまでYouTubeやディズニーなど様々なエンタテインメントやプラットフォームのビジネスを手掛けてきましたが、このタイミングでSpotifyにジョインしようと思ったのはなぜでしょうか。

トニー:面白そうな会社だというのが大きいですね。僕はSpotifyに入る直前にはディズニーで「Disney+」の日本ローンチに携わりました。パッケージソフトの販売からストリーミングに転換する時だったので、ビジネスモデルとしての変化はありましたが、ディズニーは世界的にも、日本でも、既に確立されたブランドです。一方で、Spotifyは全世界で3億8千万人のリスナーコミュニティがあるメジャーなブランドではありますが、まだまだ進化の過程であり、実験するスピリットも旺盛だと感じられました。

あとは先ほど申し上げた「クリエイターとファンをつなぐ」という企業としてのミッションがはっきりしていることも大きかったです。創業者兼CEOのダニエル・エクは「世界の5000万人のクリエイターと10億人のユーザーをつなぐ」ということを発言しているんですが、そこにはすごく賛同します。社内の誰に会っても本気でそのミッションに賛同しているし、これを実現しようという使命感が強い。僕もそのミッションと、ビジネスの今後の将来性に惹かれました。あとは、会社は結局のところ、人間なんです。この人たちと一緒に仕事ができたらいいなと感じた。こう言うと幼稚に聞こえるかもしれないけれど、大事なことだと思います。

―これまで映像など様々なタイプのエンターテインメントに携わってらっしゃいましたが、音楽および音声コンテンツには、どういう特徴があると思いますか?

トニー:僕は、今までのキャリアを通して「エンターテインメントの次のあり方は何だろうか」ということを常に自分なりに探ってきました。幸いなことに、そういった探求ができる環境で仕事をさせてもらってきたと思います。YouTubeにいた頃には「プロが作るコンテンツから誰もが作るコンテンツへ」という変化の真っ只中にいましたし、ディズニーにいた時は、一つ一つお金をかけて作ったコンテンツをサブスクリプションで届けることに取り組んできた。こうしたエンターテインメントの進化にずっと関わってきたつもりです。

そんな中で、音楽や音声などのオーディオは、人間のコミュニケーションの原点だと思います。パーソナルだけど人の心を動かす力を持ち、いろんなことをやりながら楽しめ、生活の様々なシチュエーションにフィットして人生に彩りを加える。今はそうしたオーディオの価値や役割を改めて再定義し、提案するチャンスだと思っています。オーディオの今後の将来性は大きいし、まだまだどんどん進化すると思っています。

Photo = Mitsuru Nishimura

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE