キング・クリムゾンのロバート・フリップ、愛妻トーヤと語る「夫婦漫才ビデオ」の真相

トーヤ・ウィルコックスとロバート・フリップ(Photo by Toyah Willcox and Carlo Marshall / © 2021 Toyah Willcox)


辛い時こそ馬鹿げたことを

─これら一連の動画は、そもそも誰のアイディアだったのですか?

フリップ:(ウィルコックスを指差す)

トーヤ:最初に「Rock Around the Clock」のカバーを思いついたの。ロバートに踊らせたかったのよ。ロックダウンの間は誰もがじっとしてたけど、私たちの世代は体を動かさなきゃいけない。だから彼に振り付けを覚えさせて、「Rock Around the Clock」に合わせて踊る動画を録った。それまでソーシャルメディアとは無縁だった私たちにとって、あれは最初の一歩だったの。それが数時間のうちに100万回くらい再生されて、フィリピンやオーストラリアの人たちなんかからも反響があって。「ワオ」って感じだったわ。

フリップ:私の見方は微妙に違うんだけどね。誰もが辛い思いをしている時だからこそ、パフォーマーである私たちは人々を元気づけるために何かを披露すべきだって、彼女がずっと主張してたんだ。私はそれを、すごくイギリスの文化に根ざした考え方だと思った。イギリスでは世の中が暗くなると、みんな馬鹿みたいに笑ったり、下らないことをやり始めるんだ。モンティ・パイソンの『バカ歩き省』がいい例だね。チュチュを着た私が川辺で妻と一緒に「白鳥の湖」を踊ったのは、彼女のセンスと考え方に感化されたからなんだ。



トーヤ:あれをやってみて、多くの人がすごく寂しい思いをしているんだってことに気付いたの。「あなたに救われました。ありがとう」っていうようなメッセージを、すごくたくさんもらって。彼らはそれこそ、生きていく意志を失う一歩寸前だったんだと思う。

ああいう動画を継続的にアップすることで、私たちがどこかの億ションでシャンパンを飲みながら、毎日バカ笑いしているような生活を送ってるわけじゃないと知って欲しかった。辛い思いをしているのはあなただけじゃない、そう伝えたかったの。パフォーマーである私たちは、ああいう方法でオーディエンスと繋がることができる。「白鳥の湖」については、ロバートに語ってもらった方がいいわね。彼にはまだ許してもらえてないから。

─どういう意味ですか?

トーヤ:ステイホームを強いられてる中で、庭の隅っこで「白鳥の湖」を演じるのって、すごく笑えるんじゃないかって思ったの。私はチュチュを2着持ってたから、その片方をロバートが着れるようにリサイズした。リハーサルは一切なしで、テイクはほんの数回で済んだわ。「ロバート、カメラの前を横切って。私の動きを真似してやってみて」みたいな感じでね。イギリス人らしいユーモアのセンスを出そうとしている私の意図を汲んで、ロバートはベストを尽くしてくれた。美しくチャーミングな作品に仕上がったのはそのおかげね。動画を公開すると同時に、ポジティブな反応がたくさん返ってきたけど、ヨーロッパのメディアの中には、私たちが世間一般のライフスタイルを馬鹿にしてるっていう見方をしているものもあったわ。

フリップ:私たちはいかにもイギリスの田舎という感じの、静かで小さな町に住んでいるんだ。自宅にはイギリスの家屋に典型的なテラスがあって、庭はリア川に面している。私たちはとても恵まれているけれど、贅沢な暮らしを送っているわけじゃない。「金持ちが優雅なライフスタイルをひけらかしている」なんていうコメントも目にしたけどね。アパート暮らしで気軽に公園に行けないような人がたくさんいることは理解しているから、一部でそういう受け止め方をされるのは仕方ないと思う。でも私たちが表現したかったのはそういうことではなく、辛い時は馬鹿げた行動に出るっていう英国人らしさだったんだ。

─カバーについて、ハードロックの曲群を選んだのはトーヤだろうと思っているのですが、合っていますか?

トーヤ:正解! 私がまず候補曲のリストを作って、その中からロバートに納得できるものを選んでもらって、彼が曲をアレンジするところから始めるの。曲は全部、このスペースでの表現に向いているかどうかを基準に選んだ。例えば「Girls, Girls, Girls」(モトリー・クルー)だと、私が何かにテニスボールを当てて壊してしまわないように、キッチンの廊下にスクリーンを立てたの。

過去12ヶ月間で取り上げた曲に共通して言えることは、歌詞が当時とはまったく異なる意味を持っていて、作者が考えもしなかったような解釈が成立するってことなの。「Girls, Girls, Girls」だと、当時はハリー王子とメーガン妃と王室のいざこざが取り沙汰されてたこともあって、私はテニスをしたり、同じことを延々と繰り返すことで、女性が単純な生き物だっていう見方を皮肉ってる。でもモトリー・クルーの文脈で見れば、あらゆる女性をポールダンサーと見なすような蔑視的な内容なわけ。90秒の間に、ものすごい情報量が詰め込まれてるの。

フリップ:ロサンゼルスとイングランドにおける、文化や価値観の違いを反映しているんだ。両者がボレーでボールを打ち返すような感じで、いろんな暗黙のメッセージが飛び交ってる。



─他にはどの曲の歌詞が、現在の状況と共鳴していると感じますか?

トーヤ:「Smells Like Teen Spirit」ね。当時はクリスマスの直前で、あの幼稚な香水を使ってみたくなる季節だったんだけど、30歳を過ぎるとさすがに子供っぽすぎるって咎められるようになるの。「Rebel Yell」(邦題:反逆のアイドル、ビリー・アイドル)ではトランポリンを使ったと思うんだけど、あれもまったく同じケースね。スピリットは今も健在だってこと。私は今年63歳に、ロバートは74歳になるの。でも、「Girls, Girls, Girls」ほどしっくり来たものは他になかったわね。あれはまさにドンピシャだったから。

Translated by Masaaki Yoshida

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