キング・クリムゾンのロバート・フリップ、愛妻トーヤと語る「夫婦漫才ビデオ」の真相

原曲に対するリスペクト

─あなたが選んだ曲について、ロバートに納得させるのは困難でしたか?

トーヤ:「Girls, Girls, Girls」についてはそうだったわね。でも彼はどんどん寛容になっているの。私が選んだのは誰もが知ってるような有名な曲ばかりだけど、彼はどれに対してもノーとは言わなかった。これらの曲は大勢の人々にとって大きな意味を持っているし、誰かと恋に落ちたり、結婚式での思い出なんかと強く結びついてる。多くの人々にとって、人生の節目を彩るサウンドトラックってわけ。(フリップの方を向いて)もう今じゃ、何に対してもノーとは言わないわよね? 互いに納得できるやり方を見つけたから。 

フリップ:技術的な面でクリアできるかどうかを基準にしている。ギターで曲を再現できるかどうか、彼女のパフォーマンスを十分に支えられるかどうか、オリジナルに対して敬意を払うことができるかっていうね。原曲がオーケストラを使ったバラードだったら、却下せざるを得ないだろうね。

トーヤ:テンションが上がって、踊りたくなる曲じゃなきゃね。

フリップ:それでいてロックする曲だ。

─ロバートが「Smoke on the Water」や「You Really Got Me」をプレイしたのは、今回が初めてでしたか? 彼らの曲を弾いてみていかがでしたか?

フリップ:ひとつ目の質問への答えは、基本的にはノーだ。1965〜1967年頃の私は、(イングランド南部の)ボーンマスにあるホテルの専属ミュージシャンだったんだ。駆け出しのギタリストを試すかのように、いつもバンドのメンバーから「ボブ、お前はどんなネタを持ってるんだ?」ってけしかけられてた。ギタリストにとって、若いオーディエンスを喜ばせる最近のヒット曲のレパートリーを持っていることは必須だったからね。あれから50年以上が経った今、自分が同じ状況、つまりカバーバンドの一員になった場合、私は80年代以降のあらゆるヒット曲を、敬意を感じさせるやり方で演奏できないといけないわけだよ。ある意味では、今の私がやっているのはそういうことだ。過去50年間、ほぼキング・クリムゾンの曲しか弾いてなかった私にとっては、なかなかの難題ではあったよ。

─「Enter Sandman」ではトーヤがトレッドミルでエクササイズをしながら歌っていますが、あの曲を選んだ理由は?

トーヤ:「Enter Sandman」をカバーしたのは、ロバートを思いきり笑わせたかったから。シリアスなテーマもいいけど、時にはただ純粋に楽しむことも必要だもの。ロックダウンの間にエアロバイクを買ったのは、オンラインでエクササイズしている人たちがすごく成功してるみたいだったから。エンターテイナーである私たちが普段ステージ上でしていること、つまり演じたり歌ったりっていうのを、エクササイズを交えてやったら面白いんじゃないかって思ったの。

私がノーブラなのは単にロバートを笑わせようと思ったからで、深い意味なんてまるでなかったんだけど、照明のせいでイメージとは違うものになっちゃって。さすがにまずいかなと思って、あのクリップをオンライン担当チームに見せた時に、「これって観る側の気分を害するかしら? 常識がないって思われそう?」って意見を求めたの。でもチームのメンバーは全員男性だから、「いや、最高だよ」って言ってくれたわ。



─演奏してみて「これはすごい曲だ」と感じたものはありましたか?

フリップ:はっきり言って、全部そうだったね。現時点での個人的なお気に入りは「Enter Sandman」だ。

トーヤ:(アリス・クーパーの)「Poison」も捨てがたいわね。どの曲も最高だと思うわ。

フリップ:どれも素晴らしい出来だと思う。原曲を弾いたギタリストたちはみんな、驚くべき技術の持ち主だよ。大胆極まりない展開からプレイスタイルまで、70年代後半から80年代前半はすごい才能の持ち主が揃ってたと思う。(エディ・)ヴァン・ヘイレンやスティーヴ・ヴァイ、(ジョー・)サトリアーニ、メタリカの連中、彼らは素晴らしいリフを生み出した開拓者たちだ。原曲を聴いたりライブ映像を観たり、YouTubeでカバー動画を観たりしながら、いろんな解釈の仕方があるんだなって感心していたよ。私もやるからには、原曲のスピリットに敬意を払わないといけないと感じた。

Translated by Masaaki Yoshida

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