キング・クリムゾンのロバート・フリップ、愛妻トーヤと語る「夫婦漫才ビデオ」の真相

ロバート・フリップが「歌った」経緯

─ナット・キング・コールの「When I Fall in Love」(邦題:恋に落ちた時)では、珍しくロバートがヴォーカルを担当していますが、あれにはどういった経緯があったのでしょう?

フリップ:実はあの曲は、以前にもライブで披露したことがあったんだ。1981年の12月に、日本のとあるホテルのバーでキング・クリムゾンのメンバーと一緒に演奏した時のことで、トニー・レヴィンがピアノを弾いた。バンドなりのユーモアのつもりだったんだ。奇妙なことに2年半後の1984年3月に、確か大阪だったと思うんだけど、またホテルで演奏することになってね。その時ピアノを弾いてたビル・ブルーフォードに、「Eフラットで頼む」ってリクエストして、またあの曲を歌うことになった。その時ラウンジに、エア・サプライのメンバーがいたのを覚えてるよ。エロール・フリンの映画『イスタンブール』でナット・キング・コールが歌うシーンを観て以来、私はあの曲が大好きになった。彼は正真正銘の一流のミュージシャンで、私はその真似をしてみたかったんだ。



─トーヤ、あなたはこれらの曲を歌う上で、どういった点を難しいと感じましたか?

トーヤ:90秒で自分を表現するっていうのはチャレンジだったわね。シンガーとしての自分を表現しつつ、視聴者の関心を90秒間キープするのって簡単じゃないの。関心の対象って、5秒おきに移るらしいから。ごく稀だけど、それができないと感じることもある。「Everlong」(フー・ファイターズ)はいい例ね、あれはヴォーカルよりもギターが中心だから。あのビデオで生きてる蛇を登場させたのは、視聴者を飽きさせないためだったの。あの曲のカバーに限っていえば、シンガーとしての自分の表現力だけじゃ、視聴者の関心を最後まで保つことはできなったと思う。

フリップ:あの蛇は妻のギターの講師であり、私の生徒でもある人のペットなんだ。



─「Paranoid」ではフェイスペインティングをしたロバートが金庫室のようなところで演奏していますが、彼にあれをやらせるのは大変だったのでは?

トーヤ:全然! もうノリノリだったわよ。私のギターの講師で、ロバートの生徒でもある人が、全身にタトゥーを入れてるの。それで私が彼に「あなたもやってみれば」って提案したの。それで貼り付けるタイプのやつをネットで買って。おでこには絶対ピエロを使おうって決めってたの。



フリップ:私は実際にあの金庫室に入り、妻はその外にいたんだけど、ものすごく怖かったよ。

トーヤ:どうして?

フリップ:私は基本的にステージ脇、できればあまり照明が当たらないところにいたいからだよ。でもあの映像では、(元銀行の)金庫室に閉じ込められた私にスポットライトが当たってる。閉所恐怖症の私にとっては、かなりの恐怖体験だったんだ。

トーヤ:彼がカメラのプレッシャーを感じないよう、ポジショニングを調整するのは私の役目なの。彼がそれが苦手なのはよく知ってるから。それで彼のポジションを少し後ろに下げたの。彼をカメラの真正面に立たせるのは絶対に無理なのよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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