ノー・ロームに聞く、ポスト・パンデミック時代におけるポップ音楽のあり方

「ポップ」は音楽を超えた意味を持つ

―「Remember November / Bitcrush*Yr*Life」や、今回のアルバムには収録されていないですが、「1:45AM (feat. Bearface) 」といった曲では、UKガラージの影響も感じられます。クラブ・ミュージックはあなたにとってどんなムードの象徴になってきたんでしょうか?

ノー・ローム:UKのクラブ・ミュージックの中でも最初に僕がハマったのは、ドラムンベースとガラージ。その次がハウスだった。ハウスはフィリピンではすごく人気なんだけど、僕は最初はそこまでハマらなかったんだ。でも、MJコールからガラージとドラムンベースを教えてもらったり、イギリスに引っ越したこともあって、そこからイギリスのクラブに行くようになり、どんどん魅了されていった。そういう音楽ってしょっちゅう聴くものじゃないから、特別感があるんだよ。ベッドルームで聴くものじゃないし、友達の家で聴いてもあまり機能しない。パーティーという特別な環境で聴くからこそ楽しいというのが惹かれる部分なんだと思う。クラブとか、友達と乗ってる車の中でとかね。ガラージを聴いているとエネルギーが湧いてくる。それが大好きなんだ。ただパワフルなだけでなく、スタイリッシュなところもカッコいい。そんな作品を作ってみたくて出来上がったのが「1:45AM (feat. Bearface)」。あの曲はめちゃくちゃ悲しいけど、すごくスタイリッシュなガラージ・ソング。スタイリッシュな音楽っていくつかあると思うんだけど、ガラージは確実にその一つだと思う。



―また「I Want U」はNujabesやDJシャドウなどに影響を受けたとのことですが、こうしたサンプリング・ミュージックはどんなインスピレーション源になりましたか?

ノー・ローム:僕が最初にサンプリング・ミュージックに興味を持つきっかけになったのはNujabes。Jディラから入る人も沢山いるけど、僕の場合はNujabesからJディラを知った。最初にNujabesを聴いてすごく気に入ったから、他にNujabesのような音楽を作っているのは誰だろうと探してみて、そこでJディラを知ったからね。DJシャドウもその一人。彼の音楽のドラムにものすごく惹かれたんだ。「このドラムはどこから来たんだ!?”」とものすごく食いついたのを覚えているよ。あのブレイクビートは最高。僕の大きなインスピレーションになっている。他に影響を受けているのはアヴァランチーズ。彼らの音楽性は“プランダーフォニックス”というジャンルとして言われることもあるけど、僕が「I Want U」を作っていた時は、まさにそのサウンドを目指していたんだ。例えばアヴァランチーズの「Since I Left You」は全てがサンプルで出来ている。僕の場合はギターとベースを弾いているけど、目指していたアイディアはそこだったんだよ。



―あなたの音楽性はとても幅広くジャンルレスなものだと思いますが、あえて自分の作風をキャッチコピーとして言い表すならば、どんな言葉がしっくりきますか?

ノー・ローム:それを答えるのは難しいな(笑)。でも、もしノー・ロームの音楽をカテゴリーでわけるなら、僕はポップかR&Bを選ぶかな。シューゲイズR&Bなんてのもいいかもしれないけど、この言葉だとそれが何なのか追加で説明しないといけなくなるし、シューゲイズっぽいのも、今回のアルバムでたまたま自然とそうなった感じだしね。だから、普段はどんな音楽を作っているのかと聞かれたらポップかR&Bだと答えてる。僕自身が一番インスピレーションを得ているジャンルだし、僕の音楽はメロディが頭に残るし、歌詞のトピックも近いと思うから。ポップは音楽を超えた意味を持っているし、僕はポップ・カルチャーも好きだしね。

―2019年の『Crying In The Prettiest Places』には不安や鬱などメンタルヘルスをテーマにした楽曲もありましたが、そこから成功とツアーの日々、パンデミック下のロックダウンの日々を経て、表現しようと思ったことはどう変わっていきましたか?

ノー・ローム:『Crying In The Prettiest Places』の時の状態にはもういないと思う。今の僕はその時よりも大人になったし、よりハッピーだと思うから。まあ、たまには落ち込んだりもするけどね。でも、今はアーティストとして、そして人間として、自分がどんな位置にいるかが以前よりも理解できている。前は今起こっていることが永遠に続くんじゃないかと思っていたけど、今はそれが現在という時点だからこそ起こっているんだとわかるようになってきた。ツアーや色々なことを経験して、本当に沢山のことを学んだ。自分でも成長したと感じるし、今もまだまだ様々なことを学び続けてる。音楽を作るためにフィリピンからロンドンに引っ越したというのもかなり大きかったし、今ではその経験のダークな部分も美しい部分も受け入れられている。何かに陥らず、経験を大きな塊の中の一つとして捉えることができるようになったと思う。前よりも、違いや変化を受け入れるようになって、物事を様々な角度から見れるようになった。だから、自分の音楽でも色々な異なる世界や見方を表現したいと思うようになった。アーティストとしてもそれは大切なことだと思う。

―アルバムを『It’s All Smiles』というタイトルにした理由は?

ノー・ローム:希望を込めたタイトルにしたかったから。希望に満ちたタイトルにすることが第一の理由だった。曲の歌詞はセンチメンタルだけど、アルバムタイトルに希望を持たせて皮肉っぽくしたくて。あともう一つは、ビル・エヴァンズの曲で「I’m All Smiles」という美しい作品があってあるんだけど、それが僕のお気に入りのトラックだから。1970年くらいのピアノソングで、あの曲からはかなりインスパイアされたんだ。『From Left To Right』というアルバムに収録されている曲で、亡くなりそうな兄弟についての曲らしい。辛いことがあっても笑顔で徐々に乗り越えていこうという内容も合っていると思って。


Translated by Miho Haraguchi

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