ノー・ロームに聞く、ポスト・パンデミック時代におけるポップ音楽のあり方

今は色々なルールが試されている時

―アルバムのソングライティングはマニラで行われたそうですが、ロンドンを離れて地元に戻った理由は?

ノー・ローム:マニラに戻った一つの理由は、マニラでショーをやる予定があったから。あとは、2019年はずっとツアーをしていて、色々と大変だったから家が恋しくなって、家族に会いたかったんだ。そしたら帰ってからパンデミックが始まってしまって、最初は1〜3ヶ月くらいの滞在のつもりが、1年になってしまった。だからその間にマニラで曲を書いて、ほとんど夜に書いていた。あの頃はなかなか眠れなくて。アルバム制作の最初の半分はフィリピンのスービックっていうビーチタウンに住んでいたんだけど、パンデミックの間は観光客がいなかったから、昼間は殆ど人がいないビーチにいって時間を過ごして、家に帰ってきて夜になると曲を書き始める、という毎日を過ごしていた。友人たちと一緒に住んでいたというのもあって、夜が一番集中できたんだ。そのあともっと上の階に部屋があるアパートに引っ越したんだけど、フロアの階数が上がると、夜景がもっと良くなって、そこにインスピレーションを受けるようになって、もっと夜型になっていった。高い所から見る夜景って最高だろ? そこに引っ越してからものすごく創作意欲がわいて、その勢いで曲作りを仕上げたんだ。

―レコーディングはロンドンとミネアポリスで行ったとのことですが、どんな経緯だったんでしょう?

ノー・ローム:そのあと3月にまた海外にいけるようになったからロンドンに戻って、ボーカルをレコーディングして、その後、親が体調を崩したからまたフィリピンに戻った。今はもう大丈夫なんだけどね。そしたらまた飛べなくなっちゃってさ(笑)。そのままフィリピンに残って、ミネアポリスの共同プロデューサーにロンドンで録ったボーカルを送って、リモートで作業したんだ。ロンドンでのジョージ(・ダニエル/The 1975)との作業以外は、全ての作業がリモートだった。BJバートンもサチもアレックス(Xela)も、ジョージ以外は全員。

―コロナ禍で生活や音楽制作の拠点を変えたことはどんな刺激になりましたか?

ノー・ローム:すごく刺激になったよ。フィリピンで自分の周りにあったものが曲作りに活かされたと思う。例えば、実家で昔自分が持って聴いていた音楽を見つけたり。当時の今みたいに小さくない大きなiPodが出て来て、その中に30GB分の音楽が入っていたんだけど、あれをまた聴き直したのはすごくよかった。その音楽のサウンドに影響を受けたというよりは、昔聴いていた音楽を聴いてすごくエモーショナルになったことが影響したと思う。フィリピンの実家にいたことで、ノスタルジックな感情がたくさん湧いてきたから。それに、しばらく会っていなかった昔の友達に会ったことも刺激になった。彼らと会話をしていると、いつもインスピレーションをもらうんだ。



―ここ1、2年は、ミュージシャンがワールドツアーを行うこともほとんど無くなり、国境を超えた往来が制限される日々が続いています。一方で、リモートでのコミュニケーションや共同作業も今まで以上に一般化しました。そのことによって、グローバルなポップ・ミュージックのあり方はどう変わってきたと感じていますか?

ノー・ローム:ポップ・ミュージックは大きく変化していると思う。音楽とのつながり方も、フィジカルなセールスからSpotifyやYouTubeに変わってきているし、音楽を使った収益化の方法も変化してきているしね。どんな変化もそうだけど、変化の中では良いものも沢山生まれるし、良くないものも沢山でてくる。良いものにめぐり逢うまで悪いものを手にするのは自然なこと。今は皆が自分に何ができるかを色々とやって試している時なような気がするね。アメリカではワクチン接種をした人のみにチケットを販売し、ロンドンではほぼコロナ以前の状態に戻っているし、今は色々な異なるルールが試されている時。アーティストも、どのようにしてパフォーマンスができるか模索しているんだ。ツアーをしたくないアーティストもいるし、今の状況で何ができるかを考え、皆がクリエイティヴになっていると思う。これからどうなっていくんだろうね。VRも結構活躍しているみたいだけど。VRでオンラインコンサートをやったり、BTSのコンサートを30ドルでオンラインで楽しめたり。ファンにとって、30ドルでオンラインでライブが楽しめるなんて嬉しいことだよね。これからもっと面白くなっていくんじゃないかな。

―では、最後に聞かせてください。2020年代は世界的に大きな価値観の変動の時代になっているように思いますが、そういう時代にデビューアルバムをリリースしたポップ・ミュージシャンとして、社会にどういう影響を与える存在でいたいと思っていますか?

ノー・ローム:うーん、難しいな。正直わからない。音楽が作りたいということは変わらないけど、何を発信したいかは常に変わっていくと思うから。伝えたいことが出てきたら、それをその時作っている音楽でアートとして表現する。それは毎回違うんだ。でも総合的に音楽を通して伝えたいのは「クリエイティヴになろう」ということ。それは何も間違っていないし、みんな自分が表現したいことを自分の方法で自由に表現すればいいと思う。SNSでよくあるように、人のことを気にしたり、人のために何かを妥協して作るんじゃなくて、自分自身がエンジョイできるものを作ることが大切だと思う。

【関連記事】The 1975が惚れ込んだ22歳、ノー・ロームが語る「憧れの日本」と「アジア人の挑戦」




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Translated by Miho Haraguchi

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