ASKAが語る「PRIDE」への想い、チャゲアスの代表曲をセルフカバーした理由

「PRIDE」のイントロ誕生秘話

-そうですね。ちなみに今回、セルフカバーでリリースすることになったのにはどんな経緯があったんですか?

テーマが“プライド”だからか、当時から男性やアスリートからの支持が多かったんです。そんな中、今回、亀田興毅から「自分の番組で『PRIDE』を使わせて欲しい」というオファーがあって。僕としては全然ウェルカムだったんですけど、よく考えると、自分が書いた曲でも、著作権を管理しているのは僕ではないし、原盤(制作費から発生するロイヤリティ)を僕が持ってるわけじゃない。ここは説明しても難解なところですから割愛しますが、自分の判断で自由に使うには、その原盤権を持てばいい。そうするために新たにレコーディングしたわけです。そういった流れがあったんですけど、(世間の反応は)色々ありましたよ。CHAGE and ASKAの曲をソロで出すことに対しての戸惑いと、ややの嫌悪感と、それを抑えない人の言葉を目に耳にしました。でも、それを考えてしまったら昔の楽曲は一切歌えないことになってしまいます。それで「理解も誤解もあるだろう。でも、それを語るのは今じゃない」と言ったんです。

-なるほど。ファンの気持ちも大切だけど、アーティストは何からも自由であるべきだと思っているので、リスナーの中にあるそれぞれの物語や権利関係のことに配慮した結果、歌えなくなる曲があるのは寂しいし、理不尽な気がします。ところで、今回カバーするにあたってのアレンジの変更というのはASKAさんから? それとも澤近さんが?

基本的には澤近におまかせで。僕は「イントロはあのままで」だけしか伝えませんでした。変える理由が無いというより、変えない理由の方が大きかったんで。そうなると澤近にも決心が現れたのでしょう、「あの日のままで」という。時代によって楽器の鳴り方も録音技術も変化しています。同じでも同じじゃない。細かい部分の拘りは随所にあったようですが、僕は、あまり気がつかなかったですね(笑)。

-「PRIDE」の肝とも言えるイントロのピアノはどういうふうに生まれたんですか?

澤近曰く、あれは、レコーディングする前夜というか、その日の明け方まで何も出来ていなくて、朝4時くらいにあのイントロが出てきたと。この4時というのがポイントで、僕も詞を書くときに朝方ひらめくことが多いんですが、4時って一番人間の思考が敏感になって、右脳に作用する時間らしいんです。だから、澤近が4時頃って言っていたのを聞いて“あぁ、なるほどな”って。澤近は、曲をブロックごとに作る方法はしないんですよ。一刀彫りみたいにイントロから作っていくので、あのイントロが無かったらこの曲は完成していなかったと思います。

-そうなんですね。この曲を歌うにあたって、ASKAさんはどういうふうに向き合いましたか?

89年当時は、何も考えていなかったと思います。京都から慌てて帰って、その日のうちになんとか終わらせないといけなかったので。その時に込められていたものっていうのは、多分その必死さですよね。若い日なりの、やれることのすべてを込めた感じの。初々しさも、歌う喜びも。対して今回の「PRIDE」は、もうみんなが知って認めてくれている堂々とした「PRIDE」というポジションがあるわけです。ステージで歌ってきたままに歌ってみようという感じでした。

-今回の歌には何か想いを込めるよりも、ライブ感を意識したと。歌詞を今改めて読んでみて、何か感じ方が変わったところなどはありますか?

僕はいまだに自分の歌詞のスタイルが分からないと言い続けているんですが、分からないながらも、この頃にはすでに自分の中で情景描写と心理描写が行ったり来たりする形が完成されていたんだなという印象です。ちゃんと韻を踏むところは踏んでいるし。あと、この歌詞にはサビの骨太さや強さの他にもう1つ、世離れしているところがあると思うんです。“マリア”が出てきたり、“白い窓辺に両手を広げた”という描写とか。これは『ブラザー・サン シスター・ムーン』という映画の中の、主人公が裸で太陽を仰ぐシーンがモチーフになっているんです。この映画を見た人なら誰もが覚えている印象的なシーンですね。映画の主人公のような世離れしている感じと、日常生活の現実感というそのギャップが良かったのかなと思います。

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