アデルが語る、アルバム『30』にまつわる「私」の物語

アデル(Photo by Theo Wenner for Rolling Stone)

「完全に打ちのめされた」と語るアデル。そんな彼女がいかにして離婚の痛手をキャリア史上もっとも誠実なアルバムへと昇華させたか。

【写真】離婚、恋人、父親の死について語るアデル

夫との離婚のニュースは、ひょっとしたら世間からそこまで大騒ぎされずに済むかもしれない——アデルはこう思った。時は2019年4月19日の聖金曜日(訳注:イースターの前の金曜日)。夫婦関係は、かなり前から破綻していた。祝日と週末が重なっていることもあり、世間の注目を集めるという最悪の事態を避けられると思ったのだ。

「どこまでバカだったのかしら」とアデルは振り返る。

アデルと元夫サイモン・コネッキーは、2011年から交際していた。当時急上昇していたアデルの知名度を踏まえると、ふたりの交際は驚くほどメディアの監視網をくぐり抜けてきた。理由のひとつは、レコード業界の記録を塗りかえたアルバム『25』(2015年)のリリース当時、アデルが結婚して第1子アンジェロの母親になったこと以外はプライベートについて語ってこなかった点にある。アデルとコネッキーの結婚式は極秘で行われ、インターネットにも写真は一切あがっていない。

聖金曜日の夜にプレスリリースが発表されると、アデルの不安は募るばかりだった。当時30歳だったアデルがひとりでこの状況に対処しなくていいようにと、親しい友人が英国からロサンゼルスまで飛行機で飛んできてくれた。数々のツイートやミームでソーシャルメディアはあふれかえった。ファンはショックを受ける一方、失恋の痛手が新しい音楽のインスピレーション源になるかもしれないと心を躍らせたのだ。

アデルのファンがどんな人たちであるかを想像すれば、無理のないことだ。“あなたみたいな人を見つけるから”と歌う「Someone Like You」や、数年後に元恋人に語りかける「Hello」に代表される、失恋とその後の胸の痛みを歌った作品からもわかるように、アデルは失恋ソングによって一大帝国を築き上げたのだから。アデルとコネッキーが離婚を発表した2019年、アルバム『25』のリリースから4年近い歳月が経っていた。ファンは新作に飢えていたのだ。それに何といっても、大物カップルの離婚はアルバムのプロモーションにうってつけだ。

アデルはこうしたファンの反応に当惑した。「(離婚のような)重大な出来事を経験すると、『どうして私のことを嫌うの? 10年間ファンでいてくれたのに、どうしてこんなことを書き込むの?』というふうに考えてしまうの。でも実際には、それは彼らの責任じゃない。私が良いアルバムを出すことを期待する——現実には、それがファンとしての責任なの。(ファンたちの発言は)鵜呑みにしなかった。だから大丈夫だった」

(友人でラッパーのケンドリック・ラマーの新作を心待ちにしながら「もういい加減にして!」と言ったように、お気に入りのアーティストの新作を今か今かと待ち望む気持ちをアデルはよくわかっている。実際、当時のアデルはラマーのファンと違っていくつかの新曲を聴かせてもらうという特権にあやかっていたのだが)

Translated by Shoko Natori

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