アデルが語る、アルバム『30』にまつわる「私」の物語

アルバムは息子アンジェロ宛の手紙

ツイートや新作を望む声のほかに、アデルには数えきれないほどの不安の種があった。噂や憶測が山火事のように広がったが、実のところ、彼女の離婚にはヒーローもヴィランもいなかったのだ。コネッキーは良い夫であるだけでなく、いまも息子アンジェロにとっては素晴らしい父親だ。現在もアデルの親友のひとりであることに変わりはないし、筆者(ローリングストーン誌のブリタニー・スパノス)とアデルが一緒にいるときもミームをショートメールで送ってきたりする。終幕は、ドラマチックとは言わないまでも悲痛な感情——思い描いた姿から自分が遠ざかっているのではないだろうか?という感情とともに訪れたのだ。

「自分のことをわかっていなかった」とアデルは言う。「わかったつもりでいたの。サターンリターン(訳注:西洋占星術の土星回帰。土星が自分の生まれた時の位置に戻ることで人生に迷いが生じたり、壁に突き当たったりすると言われている)が原因なのか、それとも30代に突入したからなのかはわからないけど、自分という人間がただただ好きになれなかった」

アデルは、愛情と美しいカオスに満たされた幸福な家庭に身を落ち着けたいと思っていた。だが彼女は、本当の意味でこうした安らぎを感じたこともなければ、そこにいるというリアルな感覚を抱いたこともなかった。「すごく悲しい気持ちになった」と彼女は振り返る。「私がしくじったことを世間に知られることで……完全に打ちのめされた。恥ずかしいと思った。特定の誰かに侮辱されたわけじゃないけど、失望させてしまったような気がしたの」

アデルは、誰もが待ち望むニューアルバム『30』の制作にすでに取り掛かっていた。新型コロナのパンデミックが今年の11月19日というリリース日程に何らかの影響を与えたことは言うまでもないが、2019年前半には『30』に取り組みはじており、2020年前半にはすべての楽曲を書き終えていたのだ。もちろん、先日行われた初のInstagramライブで彼女が明かしたように、ニューアルバムのテーマは「離婚」だ。だからといって『30』は、誰もが期待するような、失恋の痛みを歌ったパワーバラードのコレクションではない。

むしろアデルは、ニューアルバムを息子アンジェロ宛の手紙ととらえ、包み隠さず胸の内を明かした。いつか彼がアルバムを聴き、母親がどんな人間で、当時の出来事によって人生がどんなふうに変わったかを心から理解してくれることを期待しながら。アルバムのなかでダイレクトに結婚に言及しているのは、アデルらしい珠玉の1stシングル「イージー・オン・ミー」だけだ。『30』全体を通じて、アデルは人生におけるもっとも重要な人間関係である、自分自身との関係について語っているのだ。たしかに、30代を迎えた人にとってサターンリターンは波瀾万丈の時期かもしれない。アデル本人もよくわかっているはずだ。こうした混乱を経て、本当の自分と自分が心の底から求めているものと向き合えるようになったのだ。たとえそれが自らの人生を大きく変えてしまったとしても。




プロデューサー:ブリタニー・ブルックス&ワラー・エルシディング。ファッションディレクション:アレックス・バディア。マーケットエディター:エミリー・マーサー、ルイ・キャンプザーノ、トーマス・ウァラー。シッティングエディター:ルイ・キャンプザーノ。ロケーション:ウォルドーフ・アストリア・ホテルズ、(米国カリフォルニア州・ビバリーヒルズ)。ヘア:サミ・ナイト(A-Fame Agency )。メイク:アンソニー・グェン(The Wall Group)。ネイル:キミー・キーズ(The Wall Group)。スタイリング:ジェイミー・ミズラヒ(Forward Artists)。テーラーリング:ファラ・バシズ。Tシャツ:ヘインズ。
Photograph by Theo Wenner for Rolling Stone

Translated by Shoko Natori

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