アデルが語る、アルバム『30』にまつわる「私」の物語

父親の死を乗り越えて

デートの仕方を学んだのと同じ頃、アデルは第二の故郷で自分の道を見つけた。アンジェロを出産する前の彼女は、ロサンゼルスが好きだと一度も思わなかった。「仕事のためだけにいるような気がした。地元の知り合いはひとりもいないと思っていた」と彼女は言う。彼女にとってロサンゼルスはゴーストタウンだったのだ。だが、2013年にアカデミー賞授賞式——『007/スカイフォール』の主題歌「Skyfall」でオスカーを獲得——のために幼いアンジェロを連れて同地に家を借りたアデル・コネッキーは、ロサンゼルスと恋に落ちた。「あの朝の日差しときたら」とアデルは言う。「高層ビルがないから、いつでも空が見えるの」


Photograph by Theo Wenner for Rolling Stone

ワールドツアーのアメリカレグ中には、家を買った。セレブであふれかえるビバリーヒルズにある、ゲート付きの土地に身を落ち着けたのだ。居心地の良い家で、贅沢な赤いソファーとセージグリーン色のキャビネットがある。アンジェロの玩具や楽器専用の広い部屋があるものの、当の本人はこのところビデオゲームとTikTokに夢中だ。その後、同じエリアに家を2軒購入した。そのひとつには、通りを挟んでコネッキーが住んでいる。「週末はごくごく普通のことをする」と、アデルは家族との生活について語る。「ホームパーティにも連れていくし、学校の送り向かいもする」

アンジェロが入学したのを機に、アデルはママ友を作りはじめた。いままでは用心深く避けてきたものの、女優やデザイナーとして活躍するニコール・リッチーや女優のジェニファー・ローレンスといった近所に住む有名人たちともようやく友達になれた。「私を人間にしてくれた。知名度はさておき、名の知れた人は徹底して避けてきたから。『別に、私は有名人じゃないし』って思っていたから。こういうところはすごく(ネガティブな)英国人的なの」と彼女は説明する。「仕事について一切話さないのが最高。だって久し振りに誰かに会うと、仕事についてあれこれ聞かれるじゃない? 『その話はしたくないわ。ほかのことについて話さない? クタクタなんですけど』って思うの」

アデルはロサンゼルスでリラックスすることができた。親密で充実した人生探しを助けてくれた大切な友人たちとともに。実際、アデルは腕にタトゥーを入れるほどこの街を愛するようになった。環を持つ惑星の真ん中にロサンゼルスの摩天楼がそびえる——この場所で経験した土星回帰の象徴だ。

アデルの償いの旅は、これで終わりではなかった。故郷では、父親が8年にわたるがんとの闘いに敗れようとしていたのだ。

アデルの両親は、彼女が3歳だったときに離婚している。離婚やさまざまな別離の結果、アデルの父であるマーク・エヴァンズ氏は徐々にアルコールに依存するようになり、ついには幼い娘と疎遠になってしまったのだ。アデルが有名になっても、親娘の関係は張り詰めていた。

2021年の前半にエヴァンズ氏のがんが再発すると、アデルは会いにいくべきかどうか迷った。背中を押してくれたのはインドにいる友人だったと彼女は言う。父親は、親娘の関係と彼女がずっと感じてきた痛みについて誠実に語ることを受け入れてくれた。それだけでなく、アデルはいくつかの新曲まで披露した。エヴァンズ氏は、アデルの新曲を最初に聴いた人物なのだ。

父との最後の会話によってアデルは、ずっと感じてきた痛み、見捨てられたという感覚、愛されなかったこと——すべては父親の努力不足が原因だと思っていた——から解放された。「話したことで、父に対してどれだけ深い想いを抱いていたかがわかった気がする」と彼女は言う。

父親のすべてを理解できたわけではないものの、アデルには父を許す心構えができていた。アンジェロに対しても同じように胸の内を明かしたいと彼女は考える。コネッキー以外の人を除いて「本当の意味で誰かと人間関係を築いてこなかったと思う」とアデルは振り返った。「小さい頃から、ずっと怖かったの。どうせあなたは私を見捨てるから、私から先にいなくなろう。誰にも自分を捧げないって思っていた」

5月にエヴァンズ氏が世を去ると、アデルは「身体的な反応」を経験した。彼女はそれを人々から病が吸い取られ、身体の外に吐き出される映画『グリーンマイル』(1999年)になぞらえた。「一度声を出して泣いたら、何かが残った」と彼女は言う。「それ以来、とても穏やかな気持ちになった。本当に、幼い私を解放してくれたの」

一週間後、アデルは恋人のポールとふたたび連絡を取り、いままででもっとも「素晴らしくて、率直で、簡単な」関係を育みはじめた。世間に報告できるだけでなく、息子にも堂々と紹介できる男性とようやく居心地の良い関係を築くことができたのだ。

アルバム4枚という旅を経て、アデルは新しい愛を見つけた。結果的にそれは他人だけでなく、自分との関係性でもあったのだ。「もう孤独は怖くない」と彼女は言う。



<INFORMATION>


『30』
アデル
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
発売中

https://adele.lnk.to/30ALJPAW

■完全生産限定盤/CD(SICP-6425)価格:2860円(税込)
紙ジャケット仕様+ボーナストラック3曲

■通常盤/CD(SICP-6426)価格:2640円(税込)

■日本製造海外流通盤(国内仕様)/アナログ盤(SIJP-113〜114)価格:5940円(税込)
ブラックヴァイナル仕様

■輸入盤国内仕様/アナログ盤(SIJP-115〜116)
発売日:2021年12月8日(水)価格:5940円(税込)
クリアヴァイナル仕様

収録曲【通常盤】

1. STRANGERS BY NATURE | ストレンジャーズ・バイ・ネイチャー
2. EASY ON ME | イージー・オン・ミー
3. MY LITTLE LOVE | マイ・リトル・ラヴ
4. CRY YOUR HEART OUT | クライ・ユア・ハート・アウト
5. OH MY GOD | オー・マイ・ゴッド
6. CAN I GET IT | キャン・アイ・ゲット・イット
7. I DRINK WINE | アイ・ドリンク・ワイン
8. ALL NIGHT PARKING(WITH ERROLL GARNER)INTERLUDE | オール・ナイト・パーキング(with エロル・ガーナー)インタールード
9. WOMAN LIKE ME | ウーマン・ライク・ミー
10. HOLD ON | ホールド・オン
11. TO BE LOVED | トゥ・ビー・ラヴド
12. LOVE IS A GAME | ラヴ・イズ・ア・ゲーム

収録曲【完全生産限定盤】

1. STRANGERS BY NATURE | ストレンジャーズ・バイ・ネイチャー
2. EASY ON ME | イージー・オン・ミー
3. MY LITTLE LOVE | マイ・リトル・ラヴ
4. CRY YOUR HEART OUT | クライ・ユア・ハート・アウト
5. OH MY GOD | オー・マイ・ゴッド
6. CAN I GET IT | キャン・アイ・ゲット・イット
7. I DRINK WINE | アイ・ドリンク・ワイン
8. ALL NIGHT PARKING(WITH ERROLL GARNER)INTERLUDE | オール・ナイト・パーキング(with エロル・ガーナー)インタールード
9. WOMAN LIKE ME | ウーマン・ライク・ミー
10. HOLD ON | ホールド・オン
11. TO BE LOVED | トゥ・ビー・ラヴド
12. LOVE IS A GAME | ラヴ・イズ・ア・ゲーム
13. Wild Wild West | ワイルド・ワイルド・ウェスト
14. Can’t Be Together | キャント・ビー・トゥゲザー
15. Easy On Me(with Chris Stapleton) | イージー・オン・ミー(with クリス・ステイプルトン)

https://www.sonymusic.co.jp/artist/adele/
from Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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