『abura derabu 2021 supported by Dr.Martens』ライブレポ、コロナ禍を乗り越え実現した有観客の熱狂と感動

2021年11月21日に開催された『abura derabu 2021 supported by Dr.Martens』のステージに立つtoe(Photo by Taku Fujii)

2021年11月21日、『abura derabu 2021 supported by Dr.Martens』が東京・新木場 USEN STUDIO COASTで開催された。国内外のオルタナティブなアーティストが出演してきた不定期開催のライブイベント「abura derabu」としてはコロナ禍を乗り越え、2019年11月以来となる2年ぶりの開催となった。

今回はブーツブランドとして有名なドクターマーチンが特別協賛として加わっており、規模が大きく拡大。同ブランドは「TOUGH AS YOU(タフ アズ ユー)タフに生きよう」というメッセージとともに、チャンスに恵まれない人たちへ音楽シーンへのドアを広げる活動を行っており、イベントでは「Dr. Martens Presents Stage」を展開、音楽メディアMUSIC SHAREとのコラボレーションで新進気鋭アーティストの出演ステージを設けた。

今年の公演では、クラムボン、GEZAN、LOSTAGE、THA BLUE HERB、toe、Vampilliaがメインアクトとして出演。もう一方のコラボステージでは、aTTn、machina、Maika Loubte、Moment Joon、RIAが出演と、総勢11組が出演した。8時間超の長丁場となった今回のライブイベントについてレポートを書いていきたいと思う。順番は出演時間順でお送りする。


Photo by Taku Fujii

ライブ開始の12時半ピッタリ。Vampilliaのメンバーが静かに登場してくる。渋谷duo exchangeにおける『Silence Resistance』での沈黙の抵抗、フランスのレーベルSeason of Mistからリリースされるアルバムを現在制作中など、この時勢のなかでも精力的な活動を続けている彼ら。コイデシュンペイやリョウタザキオカらといったメンバーでギター2名、ベース、ドラム、鍵盤、バイオリンの楽器隊6名が全員黒服、そのなかでボーカルの恋幟モンゴロイドが白いTシャツと短パンで登場すると、轟音と咆哮で織られる彼らの音世界が一気に広がっていく。ステージ上の画面では白黒の映像が流れ、儀礼のなかで祈りを捧げる人々、山、空、星々、太陽に大地、自然と人の営みという日常の中に静かに鳴動する生命力を音を表現するような、ラウドなるシネマティック・ライブアクト。トップバッターから圧倒的な熱量のライブが披露された。




Photo by タマイシンゴ

コラボレーションステージ「Dr. Martens Presents STAGE」のトップバッターとして立ったのはRIAだ。「初めてスタジオコーストでライブ、呼んでもらえて嬉しいです。イベントも序盤だから踊れる曲をたくさんやります。楽しんでください!」というMC通り、ドラムンベースやトラップにハイパーポップとオルタナティブなサウンドで躍らせにかかっていく。オートチューンのかかったボイスでラップしていく姿も含め、新風を吹き込むようだった。


Photo by Taku Fujii

メインステージ2組目に登場したのは、奈良の誇る3ピースロックバンドのLOSTAGEだ。灰色のロングTシャツにカーキ色のズボンの五味岳久を含め、普段着そのまま、飾り気のないままにエネルギーに満ち溢れた演奏を披露した。「今年2月にここでワンマンをやったときは、今日みたいにたくさんの人がこなかった。でも今日はこんなにお客さんがいて頼もしいよ」と口にし、徐々にバンドのエンジンもかかっていく。「BLUE」では思いっきり歪んだギターで会場を圧倒し、続く「DOWN」ではベースの太い音色を軸にして3人が音をぶつけ合うようにアンサンブルを組み上げ、徐々に会場も温まっていく。最後の「手紙」では五味がベースを放り投げ、ネックとボディを拳で叩いて音をひねりだす。顔をクシャクシャに歪めながら演奏する姿と音は、まさにエモというべきサウンドだった。




Photo by タマイシンゴ

TAKUMI、andy、ji2kiaによる2MC1DJのユニットであるaTTnがサブステージの2番手に登場。ブレイクビーツ〜トラップを中心にしたビートトラック、2MCで交互にラップしたり、andyがトラックに合わせてギターを弾いて歌うなど、2010年代のネットミュージックを網羅するようなセンスが光る楽曲は、この日の出演陣のなかでも飛びぬけて奇妙だ。それに加え、短い曲を矢継ぎ早にかけて楽曲を披露し、MCではジョークを飛ばしながらコミカルな動きと表情で見るものを惹こうとする姿は、どこか捉えどころのないヴァイヴスを放っていた。


Photo by Taku Fujii

2020年をもって長年活動を共にしてきたベースのカルロス・尾崎・サンタナが脱退。2021年2月に開催予定であったワンマンツアーは全公演中止。新たなベーシスト18歳のヤクモアの加入を報告したものの、今年彼らが披露したライブはこの日までわずか3回。東京でのライブはこの日が今年初であり、ヤクモアにとってはGEZANとして初めて東京の地に立つ日だった。2020年1月末にリリースされた『狂(KLUE)』には、ハードコアの攻撃性が混ざり合ったサウンドに、レゲエのダブサウンドを挟み、呪術的でトライバルなドラミングや唸るような掛け声も混ざり、動物的本能を呼び起こすような衝動性があった。この日のライブでもその衝動性を観客にブチ当てていく。ステージを動き回りながら咆哮するマヒトら4人のパフォーマンスに当てられ、思い思いに体を動かしていく観客の姿が見える。その激しさとともにして、市井の人々に向けられた温かさを伴った歌詞は観客に届いているだろうか。「君のこと何も 全然知らないけれど なぜだか僕は信じてる」と歌った「I」や本日最後に披露した「忘炎」などで描かれる「ふたたび信じてみる」という力がGEZANの音楽にはある。強烈で狂暴なライブパフォーマンスは、市井の人にあるはずのその力を信じ、蘇らせようと試みる。抵抗や肯定する力を失った僕らに、彼らの音楽はやはり必要なのだ。

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Photo by タマイシンゴ

エレクトロニカ〜アンビエントのアブストラクトなトラックからスタートし、楽曲をDJにして繋いでいったmachina(マキーナ)。時折自身が歌いつつ、つぶれた音色のシンセを効かせた楽曲などを順々に繋いでいく。韓国出身でいまは東京を拠点を移してエレクトロニック・ミュージシャンとして活動しており、10月に最新アルバム『Compass Point』をリリースしたばかりの彼女ではあるが、粛々としつつ、たしかな高揚感をもたらすDJアクトを披露。MCらしいMCは一切なく、ニコッと笑ってその場を去るところまでクールであった。


Photo by Taku Fujii

「新木場では良い夜を何度も過ごさせてもらった。45分間しっかりやらしてもらうので、THA BLUE HERB、よろしくお願いします」。キャップ、シャツ、ジャケット、ズボン、ブーツまですべて黒を身にまとったBOSS THE MCは、薄暗いステージのなかで淡々とラップしていく。途中に「RIP 寂聴先生」とフッとライムしたり、ここ2年ほどのハードな現実について話題にし、観客の痛みに寄り添うように温かく言葉を届けていく。「Ame Ni Mo Makezu」「THE BEST IS YET TO COME」と披露し、「Ill-Beatnik」で一気に深みに引きずりこんでいく。地球から冥王星へと語り掛け、STUDIO COASTの思い出と自分たちの人生、10年〜50年後の未来について口にしていくBOSS。「先は長い 深い 言葉にならないくらい」という言葉が、グッと強度を増して心に刺さる。最後に「And Again」「バラッドを俺等に」が披露され、したたかで温かみある情熱を観客の心に残していった。




Photo by タマイシンゴ

「奥まで人がいますね……驚いてます。去年までこんなことはなかったので。ありがとうございます」。そう語るのはエレクトロニカ系SSWであるMaika Loubte (マイカ・ルブテ)だ。昨年からSpotifyやApple Musicといったストリーミングサイトの主要プレイリストにリストインすることも多く、最新アルバム「Lucid Dreaming」をリリースしたばかり。サポートメンバーとの2人で臨んだライブは、2人の手元にアナログのPA機器やエフェクターの実機など計10機近く複雑に配線され、そこから生みだされるオブスキュアなエレクトロニカ・ポップスとウィスパーなボーカルで聴くものを魅了するものだった。




Photo by Taku Fujii

ライブも終盤に入るこのタイミングで、クラムボンが登場した。波の音がSEで流れ始め、1曲目の「波よせて」からライブは開始。ボーカルの原田郁子とベースのミトによるダブルボーカル、伊藤大助の淡々としたドラミング、海に近いSTUDIO COASTとという場所にピッタリな選曲で、どこかセンチメンタルなムードが漂っていく。そこから「yet」「夜見人知らず」とさらに心のセンチメンタルなところをなぞっていく。ベースとピアノの導入から「ララバイ サラバイ」が始まり、音数や強弱でアンサンブルをコントロールしつつ、最後の展開で一気に音をぶつけあっていくと、そのままシューゲイザーのようなノイズサウンドへ。感情の解放といえようワンシーンだった。「最後の曲は、すべてをこめてやります」とMCして披露されたのは「あかり from HERE」、舞台袖からもちろんTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOが現れる。「行け 行け もっと速く もっと遠くへ」と力強い言葉が観客へと飛んでいく。序盤に漂っていたセンチメンタルなムードから抜け出し、タフなメッセージが届いていったライブへと変わったのだ。




Photo by タマイシンゴ

左側を坊主にし、右側を金髪に染めたお馴染みの髪型。韓国出身・大阪在住のラッパーMOMENT JOON。自身を「移民ラッパー」を名乗る彼が2020年に発表した『Passport & Garcon』は外国人として在住する人間としてのリアルなメッセージを詰め込み、シーンを大きく揺るがすことになった。「KACHITORU」「Garcon In The Mirror」「TENOHIRA」とシリアスなメッセージをもった曲を次々放つ彼の声は、ヌケの良い高い声でどのようなトラックでラップをしてもよく映える。リリース時の勢いをそのまま引っ提げた彼のメッセージは、このステージを見ていた者に強く響いただろう。


Photo by Taku Fujii

世界に誇るポストロックバンド、という枕詞はさすがに使い古されたであろうか。コロナ禍において彼らも数少ないながらもライブ活動をこなし、ライブハウス支援プロジェクト「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」の発起人として動くなど、バンドマンとして率先して先頭に立つようですらあったtoe。この日の4人は、依然と変わりない鉄壁のアンサンブルを披露した。山嵜廣和と美濃隆章のダブルギターはクリーントーンの単音リフを複雑に絡ませつつ、ファズ・リバーブなど多彩に音色を変幻させていく。柏倉隆史のスネアドラムを軸に細やかなドラミング、山根さとしの存在感あるベースライン、サポートに加わっている中村圭作の鍵盤も含め、「ここで合わせる」というポイントで強烈に音をぶつけあい、さらに複雑かつ爆ぜるようだ。バンド「んoon(ふーん)」でボーカルを務めるJCがサポートに加わった「レイテストナンバー」をはさみ、一気にバンドの熱量があがっていくと、「エソテリック」では柏倉が座っていた椅子から立ち上がって絶叫し、他のメンバーも声をあげながらギターとベースで音を叩きつけていく。アンコールの拍手をもらい戻ってきた彼らが演奏したのは「グッドバイ」。2021年11月現在、おそらく彼らにとって最後となるSTUDIO COASTでの公演をさよならで終えたのだ。



ロックとヒップホップ、ポストロックにトラップにエモにエレクトロニカ、さまざまなアーティストが登場してきたこの日のライブ。会場には多くの観客が集まり、メインフロアには活気が徐々に戻りつつある。東京近辺のコロナ感染者が減り続け、コロナとの戦いが前進していると感じられる2021年11月。STUDIO COASTに想いを馳せながら、新たな時代へと向かっていこうとする熱がそこにはあった。

Edit by SW

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