ザ・ビートルズ翻訳の第一人者、奥田祐士に聞くドキュメンタリー『Get Back』が特別な理由

(C)1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.


『Get Back』音楽的な見どころ

─音楽的な見どころでいうと、なんといってもビートルズの楽曲が生まれる瞬間を目撃できるところですよね。

奥田:はい。「Get Back」とか、ポールがちょろっとベースで弾くアイデアの断片が、曲として完成するまでをしっかり追っていて(Part1 DAY4〜)。リンゴのドラムも、最初は普通に8ビートを叩いていたのが「タッタカタッタカ」という例のパターンに変わっていく。しかもそれが、「フォー・トップスの『Reach Out』みたいにしよう」というジョージのアイデアだったことも判明します(Part3 DAY14)。歌詞も、ポールがジョンに相談している様子などもカメラに収録されていて。この一連の流れは本当に感動的でした。

─サビの部分で9thのテンションをギターに入れるところとか、ジミ・ヘンドリックスが前年にリリースした「Foxey Lady」の影響を間違いなく受けていますよね。そういう、当時の時代風景も垣間見えるところがこの映画の魅力です。

奥田:ジョージがしきりにボブ・ディランのカバーをやりたがったり、ジョンがフリートウッド・マックについて語っていたり。中でもザ・バンドの影響力って、当時すごかったのだなと改めて思いました。ポールの風貌やファッションは完全にガース・ハドソンのコスプレじゃないですか(笑)。メンバー同士で楽器を持ち替えているのも、ザ・バンドからの影響かな?と思いながら観ていました。

─言われてみれば確かに。

奥田:ビートルズって「聖域」というか、シーンとは切り離されたところにいる別格の存在と思われがちですけど、実際にはみんな同じところにいて互いに影響を受け合っていたわけですよね。それが感じられるのも、この映画の魅力の一つだと思います。

─ゲット・バック・セッションの中で、他人の楽曲をカバーしたり、自分たちの過去曲をふざけて演奏したり、奥田さんがおっしゃるように楽器を持ち替えたりしているのも、ただダラダラと遊んでいるわけではなく、そういう中からインスピレーションを呼び込もうとしているんじゃないかと思いました。そういう混沌としたクリエイティブの現場を見せるためには、やはり8時間弱の長さは必要だったのかなとも。

奥田:僕もそう思います。煮詰まっているところもあえて見せているからこそ、ルーフトップ・コンサートでのカタルシスがあるのかなと。ここは、やっぱり劇場で観たいですよね。8時間上映はさすがに無理だとしても、ギュッと凝縮したダイジェスト版を作ってもらいたいです。先日のプレミア上映会で、ルーフトップ・コンサートのノーカット版をスクリーンで観られたのは最高の体験でしたから。


『ザ・ビートルズ:Get Back』より (C)2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

─僕はルーフトップ・コンサートの、1回目の「Don’t Let Me Down」がとにかく好きですね。ジョンの鬼気迫るシャウトで全て持っていかれる。

奥田:あれで歌詞を間違えてなければ完璧だったんですけどね(笑)。それにしても、よく屋上なんてアイデアを思いついたなと。そういうところもビートルズのすごさですよね。ちなみに『Abbey Road』も、当初は『エヴェレスト』というタイトルにして、エヴェレストまでジャケ写撮影をしに行こうというプランが出たりして。結局スタジオの前で済ませるっていうのと似ていますよね。

─(笑)。リンゼイ版より家族や恋人の登場シーンが増えたのも嬉しくて。個人的にはオノ・ヨーコの印象もかなり変わりました。めちゃめちゃおしゃれでかっこいい。リンダ(・マッカートニー)と談笑しているシーンなんかもあったりして。

奥田:オノ・ヨーコの存在が、ビートルズ解散の一因などと言われてきましたが、少なくともスタジオでは全然「邪魔な存在」じゃないんですよね。他のメンバーたちもそこにいることをさほど気にしていないし。ヘザーがヨーコの真似をして歌っているシーン(Part3 DAY17)も素晴らしかったな。

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