ザ・ビートルズ翻訳の第一人者、奥田祐士に聞くドキュメンタリー『Get Back』が特別な理由

ビートルズと翻訳にまつわる物語

─そもそも奥田さんは、どういう経緯でビートルズ関連の翻訳を手がけるようになったのでしょうか。

奥田:もともとビートルズが大好きで翻訳の仕事に就いたようなものですから、いつか絶対に彼らに関する書籍は手がけたいと思っていました。そんな中で特にやりたかったのが、マイク・ブラウンの『Love Me Do』という1964年当時のビートルマニアたちを追ったドキュメンタリー本。これをどうしても自分で訳したくて、ツテを辿って90年代に『抱きしめたい:ビートルズ’63』(アスペクト)というタイトルで出版したのが最初です。

─彼らのオフィシャルの仕事に携わることになったのは?

奥田:一度、ビートルズの全曲の歌詞を訳したことがあったんですよ。ソニーマガジンから2000年に出版した『ザ・ビートルズ ソングブック全曲詩集』という「歌本」で、ビートルズの英語詞にコードネームが付いていて、その横に僕の日本語訳詞が掲載されているものでした。いろんな事情があってすぐに絶版になってしまったのですが、これを見た植村和紀さんという東芝EMIのデザイン担当の方が、「この歌詞がいい」と社内で推してくださって。ベスト盤『1』がリリースされる時に僕の訳詞を採用してくれたんです。そこからビートルズ関係の仕事を引き受けるようになっていき、2009年に全作品がリマスター再発された時、歌詞も全て僕が書いた訳詞に差し替えてもらいました。以降、ビートルズ関連の作品が出る時には毎回関わらせていただくようになりました。


『ザ・ビートルズ ソングブック全曲詩集』(書影はAmazonより引用)

─ビートルズ関連の書籍に限らず、これまででもっとも印象に残っている仕事というと?

奥田:思い入れ深いのは、1990年に出版されたマーク・リボウスキーの『フィル・スペクター 甦る伝説』(白夜書房)ですね。あれがほとんど初めて手掛けた訳本みたいなものだったので、色々と至らない点も多くありましたが(笑)、2008年に増補改訂版を出すと決まったときに改めて見返すことができてよかったです。

それと、トッド・ラングレンの『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代 魔法使いの創作技術』(P‐Vine BOOKS)という本も思い出深いです。これは(本国で)出版されるという話を聞いた時から絶対にやりたいと思っていました。版元からゲラを取り寄せて読んでみたら、ザ・バンドのロビー・ロバートソンを含め、彼がプロデュースしたあらゆるアーティストにインタビューをしている素晴らしい内容だったんです。その後、実際にトッドに会う機会があってこの本を渡したのですが、いただいたサインのよこに「Nice job!」と書いてもらえたのは最高のご褒美でしたね。


『フィル・スペクター 甦る伝説』(書影はAmazonより引用)

─では、まだ翻訳されていなくて今後やってみたい本は?

奥田:ビートルズの本だけでも色々ありますが、今パッと思いつくのは『Beatles ’66: The Revolutionary Year』(スティーヴ・ターナー著)です。タイトル通り1966年という年は、ビートルズにとってものすごく色んなことがありました。『Revolver』のレコーディングとリリースがあり、ジョン・レノンのキリスト発言が特に全米で広がり大バッシングを受け、日本での武道館公演のあとフィリピンでどえらい目に遭うという。

─本当に色々あった年なのですね。

奥田:『Beatles ’66: The Revolutionary Year』は、そんな1966年のビートルズを綿密に調べ上げている本。例えばジョンのキリスト発言が、どういう経緯であんな騒ぎになったのか。ともかく武道館公演のこともかなりページを割いていますし、そういう本があるので是非とも訳したいんですが、なかなか簡単には物事が進まないものですね(笑)。

─じゃあ、2026年の『Revolver』60周年アニバーサリーに合わせて是非(笑)。

奥田:今から5年後、ですか(笑)。CDとかどうなっているんでしょうね。でも、実はまだ「Hey Jude」のような重要な楽曲や、『Magical Mystery Tour』などもジャイルズ・マーティンのリミックスが済んでいないですから、まだまだこれからも楽しませてもらいたいです。

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From Rolling Stone US.




©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』
■監督:ピーター・ジャクソン
■出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
ディズニープラスにて全3話独占配信中
Part 1: DAY1〜7(157分)/ Part 2:DAY816(174分)/ Part 3:DAY1722(139分) トータル:約7時間50分
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/thebeatles.html


公式写真集 『ザ・ビートルズ:Get Back』 日本語版
ページ数:240ページ
サイズ:B4変型判(302mm x 254mm)
ハードカヴァー仕様(上製本)
詳細:https://www.shinko-music.co.jp/info/20210129/


ザ・ビートルズ 
『レット・イット・ビー』スペシャル・エディション
発売中
ユニバーサル・ミュージック公式ページ:https://sp.universal-music.co.jp/beatles/

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