ローリングストーン誌が選ぶ、2021年の年間ベスト・アルバム50選

10. ジャパニーズ・ブレックファスト『Jubilee』



9. C・タンガナ『El Madrileño』



8. ターンスタイル『Glow On』



7. ジャズミン・サリヴァン『Heaux Tales』



6. リル・ナズ・X『Montero』



5. ルーシー・ダッカス『Home Video』

ルーシー・ダッカスは30秒とかからずに、『Home Video』の核心に迫る。「目を逸らそうとしても逸らせない」と、オープニングトラック「Hot & Heavy」で彼女はこう歌う。「立ち去ろうとしても、振り出しに戻ってしまう」。彼女のこうした見方はアルバム全編に貫かれている。バージニア州リッチモンドで過ごした日々の物語をぎゅっと織り込んだアルバムは、テイラー・スウィフト『フォークロア』の遠い親戚とも言えるだろう。ダッカスは公園のベンチ、地下室、二段ベッドへ聴き手を誘い、10代の傷心や友情をテーマに、キャリア最高のソングライティングを見せつける珠玉の作品を紡ぎ出した。サウンドやアレンジは幅広く(至福に満ちたインディーフォーク「VBS」、ニール・ヤングの『トランス』を思わせるオートチューンを駆使した「Partner in Crime」など)、それでいて炉端の居心地の良さは損なわない。「私は自分が思う人間とはかけ離れている。だからそういう曲が書けるの」と、本人もローリングストーン誌に語っている。「大事なのは、できるだけ昔の自分に優しくすること。だって、自分では選べなかったことってたくさんあるでしょ」

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4. タイラー・ザ・クリエイター『Call Me If You Get Lost』

本作に収録されているグラミー賞ノミネートシングル「Wusyaname」で、ヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインとタイ・ダラー・サインは鮮やかな色彩とロマンティックな趣向に満ちたタイラー・ワールドに飛び込み、かつてないほど自由気ままにエンジョイしている。同じことは、このタイラーの最高傑作となったアルバム全体についても当てはまる。タイラーは『Call Me If You Get Lost』で無数の人物を自分の世界に招き入れ、うまくバランスを取りつつも、ふと気付けば自らの才能を成熟させている。ヒップホップのレジェンドDJ Dramaが全体のまとめ役を務めている。



3. ラウ・アレハンドロ『Vice Versa』

オールドスクールなレゲトン満載のデビューアルバム『Afrodisiaco』の後、プエルトリコの新星ラウ・アレハンドロは方向性を変え、本作ではマッド・サイエンティストさながらの破天荒ぶりを披露した。想定外にビートを変えたり、ハウスやボレロやブラジリアンファンクを突然挟んだり、といったことがすし詰め状態になったこの作品は森羅万象のごとく姿を変える。極めつけは、80年代にインスパイアされたミラーボール煌めく「Todo de Ti」。ディスコの活気と輝きは、やがて陰鬱な楽曲へと続く。悲観的な失恋のバラード「Cuando Fue」は、やがてドラムンベースが烈火のごとく炸裂する。こうしたひとつひとつのヒネリは、もっとも洗練された商業的ラテンポップですら型にはまらない――はまってはならない――ということを思い起こさせてくれる。

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2. アデル『30』

「どうしてこんなに肩身が狭く感じるの/何かを感じようともがいているのに?」と、アデルは『30』の中で歌う。彼女はこうした葛藤を、音楽人生でもっともパワフルなアルバムに落としこんだ。『25』を経て、彼女はシンガーとしてさらに成長した。ひとつの音節を豊かに広げ、時にオリンピック選手のごとく音階を飛び越えながら不可能なまでの感情の起伏と格闘しつつ、R&Bの歴史を自らの理念に当てはめた――夜更けのバラード「ストレンジャーズ・バイ・ネイチャー」に始まって、アレサ・フランクリンが乗り移ったかのような「ホールド・オン」、明るく穏やかなスウィング「クライ・ユア・ハート・アウト」。これは自身の離婚をテーマにしたアルバムだが、彼女が胸に抱いたであろう恨み節は微塵もない。代わりにアデルはあふれる感情を掘り下げて、悟りと、そしておそらくは信仰を見出した――名曲間違いなしの「アイ・ドリンク・ワイン」で本人も歌っているように、「犠牲の中の均衡」を。世界各国の指導者にもこうした英知を身に着けてほしいものだ。

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1. オリヴィア・ロドリゴ『Sour』

たしかに音楽業界は弱肉強食。オリヴィア・ロドリゴは2021年最初の週に、驚くほど完璧な失恋バラード「ドライバーズ・ライセンス」をリリース。だが彼女の勢いは1年中ずっと止まらなかった。オリヴィアのデビュー作『Sour』は、いきなり傑作ヒット満載のアルバムとなり、非の打ちどころのないメガポップモンスターは堂々のヘヴィローテーション入り。10代の厄介な悩みについてロドリゴは胸の内を吐露し、「鼻っぱしを折られるのって超辛い!」と叫ぶ。だが彼女は弱冠18歳にしてすでにあらゆる技を駆使する敏腕ソングライター。「ドライバーズ・ライセンス」では、元恋人の家の前を車で走り去るという行為を壮大な冒険絵巻として描き、「グッド・フォー・ユー」は90年代ポップパンクの怒りを代弁する。「デジャヴ」では、どっちが先にビリー・ジョエルを好きになったかでZ世代の恋人が喧嘩するという歌詞に、クラッシュ風のギターとフィル・コリンズ風のドラムをかき鳴らす(どこかでブレンダとエディが微笑んでいることだろう)。オリヴィアは混沌とした状態を望んでいる――だが『Sour』を聴く限り、彼女こそ時代が待ち望んでいた混沌だ。

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From Rolling Stone US.

Translated by Akiko Kato

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