ザ・ジャムやスタカンの名曲も再解釈、ポール・ウェラーが交響楽団と挑んだ「新たな挑戦」

ポール・ウェラー(Photo by Mary McCartney)

今年5月にリリースされた『Fat Pop』で、キャリア通算8枚目の全英1位を獲得したポール・ウェラー。そこから約7カ月の短いスパンで、最新ライヴ・アルバム『An Orchestrated Songbook』が届けられた。ここでは英BBC交響楽団と共演し、ソロ時代のみならずザ・ジャムやザ・スタイル・カウンシルの名曲も披露。ウェラーの新たな挑戦を、荒野政寿(「クロスビート」元編集長/シンコーミュージック書籍編集部)に解説してもらった。

ポール・ウェラーはこれまでも『Heavy Soul』(1997年)でロージー・ウェッターズ、『Heliocentric』(2000年)でロバート・カービー(ニック・ドレイクやエルヴィス・コステロとの仕事がよく知られるところ)などのアレンジャーを起用して、ストリングスをフィーチャーしたスタジオ・アルバムを幾度も制作。カバー曲集『Studio 150』(2004年)でもホーンセクションやストリングスを効果的に使っていたし、大作『22 Dreams』(2008年)でも管弦の力を借りて、幻想的な音風景を描いてみせた。

2010年の野心的なアルバム『Wake Up The Nation』辺りから、ストリングスやホーンを扱う際に現代音楽的なテクスチャーが加わり始める。そうした変化は、ウェラー自身の好みの移り変わりをダイレクトに反映していたようだ。『Sonik Kicks』(2012年)では、意外にもハイ・ラマズのショーン・オヘイガンにストリングス・アレンジを依頼、絶妙な人選に唸らされた。

ここ数作、『Fat Pop (Volume 1)』(2021年)までのストリングス・アレンジを続けて手掛けてきたハンナ・ピールは、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラとの共演盤『Other Aspects, Live At The Royal Festival Hall』(2019年)でも編曲を担当。同作はウェラーのバンドや、シタール、タンブーラ奏者も参加、精緻なアレンジで過去の名曲群に異なる角度から光を当てていた。

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今回リリースされた最新ライヴ・アルバム『An Orchestrated Songbook』は、『Other Aspects』と違って、BBC交響楽団以外の演奏メンバーはウェラーとギタリストのスティーヴ・クラドック(オーシャン・カラー・シーン)、バック・ヴォーカル陣のみに絞られている。編曲と指揮を担当したジュールズ・バックリーは、ホセ・ジェイムスの『No Beginning No End』(2012年)や、グラミー賞を受賞したスナーキー・パピー&メトロポール・オーケストラの『Sylva』(2015年)、ジェイコブ・コリアーの『Djesse Vol. 1』(2018年)などに参加。ロック勢との共演も多く、アークティック・モンキーズやレイザーライトのアルバムに力を貸してきた経験豊富な人物だ。全18曲のうち、6曲をジュールズが、残りの12曲を計8人のアレンジャーたちが手分けして編曲した。

この日のライヴはポール・ウェラーにとって実に2年ぶりのステージ。2021年5月15日にロンドンのバービカン・センターで開催されたショウの記録だ。『Other Aspects』がロック・バンド+オーケストラのコラボ的な作品であったのに対し、『An Orchestrated Songbook』はタイトルが示す通り、“ソングライターとしてのポール・ウェラー”にフォーカス。彼の音楽の重要なエレメントであるビートをすっかり取り除き、メロディをシンフォニックなサウンドの中央に据えることで、新たな息吹を与えようと試みている。



本作での大胆なアレンジメントについてジュールズ・バックリーは、たとえばソウル寄りの楽曲では「オリジナル・ヴァージョンのホーンには、スタックス・レコードのようなサウンドが見受けられる。それらの曲ではベースとドラムに頼っていて、気分を盛り上げる原動力になってるんだ。だから、いくつかの曲ではリスクを冒して、本当に違うことを試している」と説明する。「オーケストラのパーカッション奏者がドラムキットを演奏するというありきたりな演出」は特に避けたかったそうで、異化による刺激をウェラーと彼のファンにもたらそうという狙いが明確。その成果は、絢爛豪華なシンフォニック・ポップに生まれ変わったスタイル・カウンシルの代表曲「My Ever Changing Moods」を聴けば明らかだ。

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