『GUNDA/グンダ』映画評 モノクロームの映像美で綴る、ある母豚の日常

『GUNDA/グンダ』© 2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.

ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りをあげ、世界の名だたる映画作家たちが絶賛する映画『GUNDA/グンダ』。“最も革新的なドキュメンタリー作家”と称される、ロシアのヴィクトル・コサコフスキー監督の最新作は、モノクロームの美しい映像美で綴る、母豚の日常をありのままに捉えた93分のドキュメンタリー作品だ。

12月10日より日本でも公開を開始した、ヴィクトル・コサコフスキー監督の最新作『GUNDA/グンダ』。本作を最も端的に表現すると「豚の一生の一部を題材にした映画」、こうなるだろう。主人公は、人を引きつける表情豊かな眼差しが印象的な、ノルウェーの農場に暮らす母豚のグンダ。映画『GUNDA/グンダ』は、生まれたばかりの子豚たちが鳴き声をあげて互いを押し退けてもがきながらグンダの母乳を求めるシーンで幕を開ける。子豚たちの鳴き声には、痛々しいとは言わないまでも、絶望感と満たされない感情のようなものがある。こんなに小さな生き物が必死に生きようとしているのだ。観客は、グンダが起き上がって体勢を整えようとしたのは、生まれたばかりの子豚が押しつぶされてしまったからだと思うかもしれない——苛立ちに満ちたグンダの鳴き声の理由はそこにあるのかもしれないと。だが、カメラが干し草をとらえてから母乳にありつけずにいるひ弱な子豚を映し出すと、グンダは容赦なくひづめで子豚を踏みつけて間引きする。悲鳴が響き、観客は戸惑うーー。

冒頭の数分から、グンダは示唆に富んだ緻密なモノクロ映像とともに観客の前に現れる。グンダが暮らす農場をはじめ、すべてのシーンは自然光だけを頼りとし、時代や場所などの情報を教えてくれるナレーションや字幕は一切ない。カメラとカメラがとらえる美しさを除いて、人間の痕跡や「映画」というあからさまな装置の存在を暗示させるものはほとんどないのだ。ここはグンダの世界。グンダが子育てに励み、子豚たちの要求、習性、本能、感情といった表現が難しいながらも親密な世界が繰り広げられる農場に私たちは放り出される。


© 2020 Sant & Usant Productions. All rights reserved.

スクリーンに映し出される世界は、何もグンダと子豚たちのものに限定されていない。そこには牛や、とりわけ印象深い一本脚の鶏といったほかの家畜も含まれる。まさにこれが同作のテーマなのだ。『GUNDA/グンダ』は、過剰なまでに擬人化された紋切り型の可愛らしい動物描写に対するノーカットの反論である。さらには必然的に、彼らを食べることをやめようという訴えでもあるのだ。

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Translated by Shoko Natori

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