トム・ミッシュが奏でる救済の音楽 「歌とギター」の穏やかな名盤5選

「歌とギター」の穏やかな名盤5選

1. The Durutti Column『Keep Breathing』(2006年)

『Quarantine Sessions』をはじめてYouTubeで見た時から、何となく頭をよぎったのがドゥルッティ・コラム。ヴィニ・ライリーが紡ぐ繊細なギター・サウンドと、淡い水彩画のような透明感のある音色が遠からずリンクしたのだった。ドゥルッティ・コラムといえばファクトリー期の作品が名作として挙げられるが、この2006年の作品も捨てがたい魅力があふれている。ディレイを効かせたギターと、時折聞こえる朴訥したヴォーカルは円熟味を増し、ジャケット写真のような揺らめくサイケデリアが眩しい。ポストロック、フリーフォーク、チルアウト~アンビエントなど、その後のシーンにも与えた影響は計り知れない。



2. Mark Hollis『Mark Hollis』(1998年)

80年代の英国バンド、トーク・トークのフロントマン、マーク・ホリスがバンド解散後に吹き込んだ唯一のソロ・アルバム。クラシックや現代音楽といった要素をふんだんに取り入れながら、シンガー・ソングライターとしての内省的で静謐な部分を室内楽というアプローチで見事に描き切っている。厳密にはギター作品とはいえないが、緻密に練られた音響的なスタイルは、その後のシーンに多くのフォロワーを残している。例えばポーティスヘッドやレディオヘッドといった90年代オルタナティブ勢を例に挙げれば、自ずとトム・ミッシュもその遺伝子を受けていると想像できる。



3. Westerman『Your Hero Is Not Dead』(2020年)

トーク・トーク~マーク・ホリスと来れば、プリファブ・スプラウトやブルー・ナイルといった叙情的なバンドを思い浮かべてしまうが、そんなサウンドを現代によみがえらせるのがこのウェスターマン。実に英国らしいウィットに富んだ実験的なロック~ポップスを展開していて、最近では最も注目しているアーティストのひとりだ。残念ながらYouTube上にアップされたMVではギターを弾く姿を確認できないが、このアルバムを聴けば、そのテクニックやセンスも間違いないことがすぐに分かるだろう。余白や奥行を配したアレンジは、まさに引き算の美学で、トム・ミッシュのサウンドとの近似値も見いだすことができる。



4. Puma Blue『In Praise of Shadows』(2021年)

ジェイコブ・アレンによるソロ・プロジェクトがこのプーマ・ブルー。彼もサウス・ロンドン出身で、実はトム・ミッシュと同い年。ディアンジェロやエリカ・バドゥといったソウルクエリアンズが手掛けた密室的なソウル・ミュージックからの影響が色濃く、またヌバイア・ガルシアやジェイミー・アイザックをはじめとする新世代UKジャズ・シーンの中でも特別な存在感を放っている。囁くようなヴォーカル・スタイルはチェット・ベイカーを彷彿させ、触れれば壊れてしまいそうな儚さがにじみ出ている。まさに深い“ブルー”を感じさせる作品だ。



5. Bibio『Hand Cranked』(2006年)

英国ウェスト・ミッドランズ出身の音楽家スティーヴン・ウィルキンソンによるソロ・プロジェクト、ビビオが2006年に発表した2ndアルバム。カセットレコーダー、音声レコーダー、MD、サンプラー、ギター、そしてiMacといった限られた機材だけで録音された作品であり、その後のビビオの唯一無二のサウンドの原型がここに収められている。宅録でローファイという点に『Quarantine Sessions』との接点があるかもしれないが、音響に関していえば両者ともただならぬこだわりと執着が感じられる。あえて有機的なアレンジメントを施すことで、聴く者にノスタルジックな印象を与えて、不思議とどこかで触れたことがあるような感触や匂いさえ想起させる。






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